碧落ラストコネクション


「待って、シアン」

シグナルはシアンの腕を掴んで引き止めた。振り返ったシアンは、それ程驚いた様子でも無い。

「どうしました?」

「…黄の国に行くのって……」

あの重罪人に会うためなのか。
自然な流れでチェリーに聞いていたのも、そのためなのか。聞きたい事は山ほどあるのに、言葉が出なかった。

「……シグナルくん。キミは、キミの進みたい道を歩んでください」

あの時の、自分をヒーローだと言った時と同じ、見透かすような…それでいてどこか優しい瞳で言うシアンに、目を見開く。まるで時が止まったかのような錯覚を起こした。

「…別に、誰かを殺しに行ったりするわけではありませんよ」

「……」

「それではシグナルくん、また会いましょう!」

掴んでいた彼女の細い腕がスルリと抜ける。だんだん小さくなっていく後ろ姿を、ただ見つめることしか出来なかった。



***



「遅い!どこ行ってたのよ!!」

「いやぁスミマセンねぇ〜でも有力な情報は手に入れたので、許してちょんまげ〜!なのです!!」

「古っ…」

漸く2人と合流したシアンは笑顔でネタをぶちかますもマゼンタにスルーされる。辛うじてボソッとツッコミを入れたソレイユは、若干ヘコんだシアンの背中を軽く撫でて慰めた。

「私たちも一応、情報は多く手に入れておいたわ。あまり有力とは思えないけど」

「どんな情報なのです?」

「ソレイユ」

「わかってるよオバサン!」

マゼンタに促され、ソレイユは腰に付けたポーチからメモ帳を取り出した。
マゼンタは手に入れた情報を書き留めるなんて事は絶対しない。今回得たものも、全て彼女の脳にインプットされているだろう。

それでも今回彼にやらせたのは、おそらく情報収集能力をつけさせるため。何だかんだ言ってちゃんと教育係をしているマゼンタに、思わず笑みが零れた。


「ハニー・プルミル、性別は女。元黄の国情報処理部局長。IQ200超えの天才ハッカーで黄の国の機密情報や黄国民全ての個人情報、悪質なウイルスを世界中にばら撒き、死刑に処されるが、処刑当日に行方不明…ってこんなもんだけど」

「え、シアンと全く一緒なのです」

「どこが有力なのよ!これ、知ってる人は知ってる情報なのよ!?居場所が分からないなら意味ないじゃない!!」

メモを読み上げたソレイユに真顔で帰すシアンを、マゼンタが怒鳴りつける。確かに本人を探しているのだから、彼女の行方が分からなければ意味が無い。しかし焦るマゼンタに対して、シアンは余裕の笑みを見せた。

「手がかりならあるのです」

「はぁ…?」

「彼女自身、罪は認めています。死刑の覚悟も出来ていたはずです。では何故、処刑当日に消えてしまったのか…」

「そんなの、怖くなって逃げたんじゃねーの?」

ソレイユの言葉にシアンは眉を下げ人差し指を左右に動かした。

「ノンノン、それじゃ一般人の推理と変わらないのですぅ」

「……」

ソレイユはその顔と言い方にイラっとするも、やり返す事など出来ないので堪える。シアンは続けた。

「それに、彼女は確かに重罪を犯しましたが、何も死罪にするほど重くはありません」

「え、そうなの?」

シアンの言葉にソレイユは首を傾げる。そんな彼を見てマゼンタはため息をついた。

「黄の国の法律上、殺人を犯していない限り死罪にはならないのよ。アンタ黄の国出身の癖にそんな事も知らないの?」

「う、うるせえよ悪かったな!!」

「ていうか…アンタのその推理からして、まさかとは思うけど…」

マゼンタはシアンに目を向ける。ソレイユはそんな2人を見比べ頭にクエスチョンマークを浮かべた。

「彼女に味方する別の誰かが、彼女の処刑を妨げた……そう考えるのが妥当でしょうねぇ」

「え!?」

シアンの推理にソレイユは声を上げて驚く。
ただし、本人が“罪を認めた”というのが嘘であるなら話は別だ。それが演技であるならば、自分の意思で逃げた事になる。

しかし彼女が本気で罪を認めたのならば。一体誰が、何のためにそんな事をしたのか。

「……で、肝心の居場所は?」

マゼンタは面倒そうに問う。ソレイユも、まさか分かりませんなんて言うんじゃないだろうな、と疑いのこもった目だった。

「サルファーに聞きます」

「何で!?」

「彼女と話したことがある彼なら、彼女が誰と繋がっていたのか、少なからず知っているはずなのです」

「ああ…そういうこと」

言葉足らずのシアンには毎回驚かされる。“世界最凶”とは言うが、それは強さの話であって、シアンの脳みそはパッパラパーだ。
頭の悪い彼女に、今回の新メンバー候補はもってこいだった。

「で、ソレイユくん。シアンはスマホを忘れたので代わりに連絡よろしくなのです」

「結局忘れ物してんのかよ!!!」

エヘヘと笑うシアンに、マゼンタは何度目か分からないため息をついた。

「(こんなのがS級犯罪者組織のリーダーなんて…)」


先が思いやられる。




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