碧落ラストコネクション


PLLL…

一方、“碧”のアジトでは、古びた電話が鳴り響いていた。録画していた『よしもり新喜劇』を見ていたサルファーはその音に気付き、リモコンの停止ボタンを押して立ち上がった。

「…はい、もしもし」

《あっ、サルファーさん!僕です!僕!》

「……僕僕詐欺か?何やえらい新しいパターンの犯罪やなぁ…どうせならもっとひねろや」

《いやソレイユですから!!!別にウケ狙ってませんし!!!》

まさかオレオレ詐欺扱いされるとは思っていなかったソレイユは、慌てて名乗る。サルファーは何の用か聞こうとしたが、次に受話器から聞こえたのはソレイユではなく、シアンの声だった。

《ででーん!シアンでございま〜す!!》

「わかっとるわ。何の用や」

《む…リアクションが薄いのです》

そんな事を言われても、電話越しに変われといった会話が丸聞こえだったのだから仕方ない。さっさと話すよう促せば、シアンは待っていましたと言わんばかりに声を弾ませた。

「ハニーさんのことなのですが」

《おう》

「彼女と最も親しかった人間は、ご存知ですか?」

シアンの言葉に、ソレイユは目を見開きマゼンタに目を向けた。まさかそれが、彼女の処刑を妨げた犯人の正体なのか。マゼンタもそれが妥当だろうといった表情で、特に驚いた様子も無かった。

《……1人だけ、知ってるわ》

「その人の名は…?」

サルファーはその人物を頭に思い浮かべる。かつて自分と、同僚だった男……。


《……レモン・イエロー》

「レモン・イエロー!?」

その名を聞いたマゼンタは驚く。ソレイユも名前だけは聞いたことがあるらしく、微かに目を見開いていた。

「おや、2人ともご存知なのです?」

「知ってるに決まってるわよ!大体何でアンタはそういうのに疎いわけ!?」

「え〜そんな事言われましても〜」

本当に知らないらしいシアンに、サルファーはため息をついた。

《…黄の国の四天王No.1や》

「え、まじですか」

《まじや》

確かに、四天王と情報部は交流が深く仕事を共にする事も多い。だが、国民を守る為に戦うひ四天王が罪人を庇うなど前代未聞だ。

《で、レモンがどうしたんや》

「ハニーさんの処刑を邪魔した犯人かな、と予想中なのです」

《ああ…》

「えっ、納得しちゃうのですか?」

《まあ…あんだけ仲良かったらな……大切な人間が死ぬのなんて、見たくないやろ》

「…ちょっと待って」


シアンとサルファーの会話を、マゼンタがピシャリと止めた。もうその方向で話が進んでいる事に危険を感じたからだ。


「ハニー・プルミルが、死罪を受け入れる気が無かった可能性も捨て切れないわ。受け入れると言っただけで、逃げる準備を整えていたかもしれない」

《………》

「大体、私ならそうするわ。死罪に値しないのに、国に勝手に殺されるなんてごめんよ」

《…いや、それは無い。ハニーはお前みたいにこっっすい女ちゃうしな》

「何ですってぇ!?」


ハッキリと断言したサルファーに、マゼンタは激昂する。しかしハニーと面識もあり、仲も良かったらしいサルファーが言うのだから、全てがハニーの演技だったというその可能性は低いのだろう。

「…じゃあ、その黄の国四天王が絡んでいる確率の方が高いのね?」

《ま、そうなるな》

もし本当に、彼が処刑を妨げた犯人なら……ハニーをどこか遠くへ逃したか、彼女を匿っているかのどちらかになるだろう。

しかしハニー本人が死罪を受け入れて死ぬ覚悟でいるのなら、今更遠くへ逃げているとは考えにくいとサルファーは言う。

だとすると後者。四天王レモン・イエローが匿っている可能性が高い。
となると、彼女を隠すための場所が必要となった筈だ。そしてその場所は、彼の立場を考えても、誰からも見つかってはならない。一般人の目には届かないが、彼自身の目に届く所………

必然的に、場所は黄の国にしぼられた。

《で、問題はそれがどこにあるか…やな》

「サルファー心当たりあります?」

《いや、全然ないわ》

そう聞いてシアンは肩を落とした。
………まだまだ先は長い。


「………な、なぁ」

ずっと黙って考え込んでいたソレイユが声を発した。その顔は、何かに気付いたような、少し怯えた表情だった。

「その四天王の男、ハニーって人を黄の国で匿っているなら…仮に今の僕達みたいに変装していたとしても、バレるのは時間の問題じゃねえの?」

ソレイユの言葉に、マゼンタは腕を組み何かを考え始めた。するとソレイユの言わんとすることを理解したのか、彼女もまた息を呑んだ。


「あの事件が起きたのって確か…」

《………3年前、やな》

「そんなに経つのに未だ誰もその事実を知らない、気付いていないのだとしたら……」

マゼンタの推測に、サルファーもまさか、と息を呑んだ。言葉の続きを言おうとしないマゼンタに、ソレイユが先に口を開いた。


「監禁……されてるんじゃ……」


ソレイユの言葉に、シアンは目を見開く。確かに、彼女は指名手配中のS級犯罪者。数多くの手練れが彼女を探し続けている。しかし3年間誰もハニーの行方が掴めていないとなると、相当上手く匿っているのだろう。それこそ、外に彼女の姿を絶対に見せないように。

「……どう思いますか、サルファー」

《……あり得るわ。あいつ、ハニーの事件があってから、人が変わったように雰囲気もおかしくなっとったし、突然姿が見えなくなる事もあったからな…》

それから黙りこくったシアンに、サルファーは気付かれないように笑った。

「(……どうせ、止めても行くんやろうな)」

一度決めたことは最後までやり遂げる性格だ。それに、彼女はもう既に大罪を犯している。怖いものなんて、何も無いだろう。

《……サルファー、アジトの空き部屋の掃除、お願いします》

「……了解」

プツッと切れた電話に、思わず笑みが零れる。確かマゼンタの隣の部屋が空いていたはずだ、とそちらへ足を進めた。

「…またこの家も、賑やかになりそうやな」



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