碧落ラストコネクション


真っ黒。
光の無い空間に、ヒトリ。


出口はどこだろう、なんて疑問はもう捨てた。どこだっていい。分かったところで現状は変わらない。

暗闇の中、四角い光を灯すPCの画面だけが、唯一の光。窓も無い、机も椅子も無い。あるのはPC1台だけ。
時間も日付も分かるし、ネットのおかげで外の天気だって分かる。けれど、空が今実際どんな色をしているのかは分からない。


こんな日々が続いて何日…何年経っただろう。考える事すら無に等しい。無造作に切られたバランスの悪い髪も鬱陶しくて嫌になる。

その時、この部屋に唯一ある扉からノック音が聞こえ、扉が開く。突然流れ込んだ微量の光に目を細めた。
こんな部屋の扉を開ける者なんて、1人しかいない。


「やあ、ハニー。夕飯を持ってきたよ」


薄い金色のウェーブヘアに、エメラルドグリーンの瞳を持つ男…黄の国四天王No.1、レモン・イエロー。優しく微笑むその姿は、まるでおとぎ話の王子様そのものだ。
……かつての彼なら。

「また機械弄りかい?やりすぎると、目を悪くするよ」

「……もう手遅れよ」

自分のかけている眼鏡の赤い縁を人差し指と中指で上げる。入ったレンズの度はかなり強い。

「そういえば最近、妙な噂があってね。キミの情報を探っている者がいるらしい」

「……私の?」

廃れて忘れられた重罪人の情報なんて、何の価値も無いのに。一体誰が、そんな無駄なことをしているのだろうか。

「行方不明となっているキミを見つけることは不可能だ。それにキミはもう、逃げることなんて忘れてしまったのに…………ね?」

冷めた目で自分を見下ろす男を、ハニーは無機質な目で見つめた。その笑顔の裏に隠れる彼は、何を見ているのだろう。

「あれ?…昼食、また手をつけていなかったんだね」

「……」

「痩せ細ってしまうだろう。夜は全部食べるんだよ」

時間が経ち硬くなったパンケーキを見て男は言う。
味を感じない。薄暗い空間で食べるものに、次第に何も感じなくなっていた。そんなもの、食べる価値なんてあるのだろうか。

「……それじゃあ、僕は仕事に戻るよ。おやすみ、僕のハニー」

キィ…と音を立てて重い扉が閉まった。微かに残るレモンの香りに、頭がくらくらする。

希望なんて持ってはいけない。
仮に私を探している人間が本当にいたとしても、ここには決して入って来れない。いっそ殺してくれればいいのに。もう、誰にも会いたくない。

これ以上私のテリトリーを、超えないで。



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