碧落ラストコネクション


「うーむ…とは言っても、シアンに情報収集能力はあまり無いんですよねぇ…」

その頃シアンは黄の国を歩き回って数十分、時刻は19時を過ぎていた。3人全員変装して、マゼンタ特製の偽装パスポートで入国したのだから正体がバレることは無いだろうが、下手に情報を聞き出せば怪しまれてしまう。

マゼンタにテクニックでも教えて貰えばよかったと思いながら歩いていると、突風と共に、前方から「あっ」と誰かの声がした。

「……?、おっと」

その声に顔を上げると、黒い何かが飛んで来てシアンの顔を掠める。そのまま風に流され飛んでいきそうになったそれを手に取って見てみると、つばの大きな黒いハットだった。すると先程の声の主であろう人物と目が合い、その人はこちらへ走ってきた。

「すいません!それ私のです!」

「あ、やっぱりそうでしたか…ここ最近、風が強いので気を付けてください」

黒のハットを目の前の少女に渡す。安心したようにハットを被る少女に、シアンは驚いた。

黄緑色のウェーブがかったロングヘアの、低身長の美少女。そのパステルカラーの髪色に、帽子の黒が映える。

オレンジタウンで会ったチェリーもかなりの美少女だが、それとは違ったタイプの整った顔立ち。どちらかと言えば可愛い系統のこの少女は、どんなアイドルよりも可愛かった。

「……て、天使なのです」

「…?」

「キミ、可愛すぎやしませんか」

「えっ」

普段からマゼンタのようなキツめのタイプの美女ばかり見てきたため、シアンは目の前の美少女に癒されていた。
最近美人の遭遇率高いな、なんて思っていると、少女はクスッと笑った。

「ふふっ、ありがとうございます……お世辞でも嬉しいです。この帽子も、取ってくれてありがとうございます……大切なものなので…」

「おや…それは良かったのです!いやぁ、似合ってますねぇ〜貰い物か何かですか?」

「はい。すごく、大切な人からのプレゼントなんです……本当にありがとうございます!あ、何かお礼を…」

「えっ」

まさかそこまで感謝されるとは思っていなかった。よっぽど大切なものなのだろう。
ふと彼女がつけているネックレスに目を向けると、大きな黄色いトパーズのクリスタルである事に気付く。この黄色いクリスタルは、黄の国の国民である証拠だ。
この国の情報を得るには、この国の人間に聞くのが一番手っ取り早い。

「……じゃあ、お言葉に甘えて。……ここに来たばかりなので、黄の国のこと案内して色々教えてもらっても良いですか?」

「ええ、もちろん!あ、私はハーブ・ルトア。こう見えて20歳です」

「えっ」

シアンよりも小さい、おそらく150cm代の彼女が自分よりも年上なことにに驚く。20とは…つまりサルファーと同い年だ。

「ソラって言います。18歳なので敬語使わなくて良いですよ〜」

「えっ、年下だったんだ…!じゃあ、よろしくねソラちゃん」

ニコリと微笑んだ美少女に、シアンは再び癒される。天使だ。

「こちらこそ、よろしくなのです!」



***



「で、ここが黄の国情報局部。その隣の大きいビルが本部よ。本部っていうのは、長や戦士たちが集まる場所ね……って、流石にそれは知ってたかな?」

「いえ、詳しいわけではないのでありがたいのです!」

時刻は20時を回り、黄色い街灯が夜の町を照らす。夜の木造の建物が独特な雰囲気を出し、昼とは違った落ち着きを見せた。

しかしこの辺りだけは、木造ではない建物が並んでいる。シアンが辺りを見渡していると、この近辺での唯一の木造建築があるのに気付いた。

「あの建物は何です?」

シアンは本部よりも高い建物を指差して問う。ハーブは指が示す方向へと目を向け答えた。

「それね、新しい本部になる予定だった建物なの」

「だった…?」

「この国の建物って、本部や情報局部以外ほとんど木造建築物でしょ?黄の国のポリシーでね……文化であり、伝統なの。だから昔の本部も木造だったし、新しい本部も木造の予定だったんだけど…」

「ほう、歴史ある国なんですね…でも燃えたら終わりですよね」

「そう、そこなのよ。…あれは3、4年ほど前に建ったものなんだけどね。黄の国出身のとある人間が爆弾を落としてって…」

「(………ソレイユくんか)」

確か彼の最初の犯罪は黄の国でのテロだったはずだ。おそらくこの建物はその被害者なのだろう。
他にも沢山の観光名所を教えてもらったが、どれも古き良き歴史あるものばかりだった。


「はい、これで黄の国の名所は大体教えたわ」

「ありがとうなのです〜!感謝感激!!」

「ふふっ、大袈裟よ」

天使の微笑みに再び顔が緩む。端から見れば完全に変態だ。

「それじゃあハーブさん、今日はありがとでした。またお会い出来たら嬉しいのです!」

「こちらこそ、本当にありがとう。また黄の国に来た時は、案内するわ」

シアンは見下げつつも自分より遥かに大人びた彼女に礼を言い、その場から去っていく。

ハーブはその後ろ姿をじっと見つめていた。
なんてことないキッカケだが、彼女にとっては大切な帽子を守ってくれた恩人だ。

帽子を取ってぎゅっと握ると、頭に思い浮かぶのはこれをプレゼントしてくれた人物。



「今、何処にいるの……………サルファー」



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