碧落ラストコネクション


「……」

この国を案内してくれた、あの時の天使のような美少女。まさか四天王だったとは…とシアンは苦笑した。「はじめまして」という言葉や彼女の反応から、シアン=ソラという事はバレていなさそうだ。

「あなたたちの目的を教えて。何の用でこの国に来たの?」

キリッとしたその表情には、先ほどのふわふわした面影は感じない。ハーブの質問になかなか答えようとせず、黙ったままのシアンを見て、マゼンタは前へ出た。

「黄の国に用は無いわよ。どいつもこいつもうっさいわね」

「マゼンタ・ラヴローフ…あなたには聞いてないわ」

ハーブはマゼンタを睨み、ハーブの後ろにいる戦士たちはそれぞれ武器を構える。いつでも攻撃態勢に入れるというハッタリなのだろうが、マゼンタはそれすらも鼻で嗤った。

「フン、理解力無いのねアンタ達。この女を見て分かんないの?」

マゼンタはシアンの後ろにいたハニーの腕を掴み、見せつけるように前に出す。黄の国一同は行方不明だったはずの重罪人の姿に驚き目を見開いた。

「う、そ……ハニー…なの……?」

「………」

驚愕の表情で見つめられ、ハニーは思わず目を逸らす。騒めく戦士たちに、ソレイユも口を開いた。

「僕らが本当に黄の国を狙ってんのなら、建物もぶっ壊すし人間も殺すっての!!」

「なら…っ!どうしてあんな派手なやり方で…!?」

「知らせるためなのです」

突然口を開いたシアンに戦士たちは硬直する。
初めて聞く“紅の修羅”の声、動き……。いつ、どうくるかわからず、何もかもが恐怖に感じる。その恐ろしさに1人の戦士がシアンへ武器を投げつけた。

しかし、


カキン!!

「…!?」

武器はカラン、とシアンの足元に転がった。
その状況に戦士たちは混乱する。投げたはずの武器はシアンに当たることはなく、それどころか、“何か”に“跳ね返された”。
盾や壁があるわけでもない。高速で移動していた先程とは違って、シアンは手も足も動かしてはおらず、微動だにしていない。

「今…何が………!?」

戦士たちは恐怖に支配されていた。
…勝てない。本能が警報を鳴らす。自然と足は竦んでいた。

「も〜、ナイフなんか投げてこないでくださいよ〜怪我でもしたらどうするのですかー!?」

面倒そうにぶりぶり文句を言うシアンに、ハーブは実力の差を感じた。こちらの人数でも、シアン1人に敵うイメージすら出来ない。

「知らせる……って言ったわよね。何の話…?」

ハーブの問いかけに、シアンは思い出したように声を上げた。

「ああ!そうですそれなのです!!どうも黄の国の皆さんはじめまして、“紅の修羅”改め、シアン・ミルラーシュと申します!S級犯罪者組織“へき”のリーダーなのです!」

「“ヘキ”…?」

聞いたことのない組織の名にハニーさえも驚く。そんな情報はどこにも無かったはずだ。今まで相当上手く隠密に活動していたのだろう。

「“碧”は去年出来たばかりなので、知らなくて当然なのです」

ニコニコと笑顔で言うシアンに、戦士たちはさらなる恐怖を感じていた。わざわざS級ほどの犯罪者たちが集まってする目的とは、一体何なのか。

シアンは不適な笑みを浮かべ、ゆっくりと両手を広げた。


「我々“碧”は…この世界を征服する」


珍しく凛とした声でそう言い放つシアン。
シアンの後ろに立つ3人には、今彼女がどんな表情をしているかは分からない。

…………だが、


「「はぁぁあああ!?!?」」

「お?」

マゼンタとソレイユの叫びにシアンは振り返る。いつもと変わらない様子にも驚いたが、問題は先程の発言だ。

「せ、せかっ………アンタ何考えてんの!?」

「世界征服なのです」

「アジトあれなのに!?」

(※あれ:一軒家)
仲間も目的を知らなかったのかとハニーは驚く。けれど、言い合う3人の様子に拍子抜けして、思わず笑みが零れた。…さっきは1人で逃げて勝手に死のうなんて考えたりもしたが、やはりやめておこう。
これから自分もこの人たちの仲間なのかと思うと、頬を撫でる風が何故だか暖かく感じた。

「さてみなさん、ここからが問題なのです」

「……?」

「ヤバイこと言った後なんで、全速力で逃げましょう!!」

シアンがそう言い終えると同時に、戦士たちのライフルが全てこちらに向いた。“世界を征服する”なんて宣言され仰天する戦士たちだが、ハーブを筆頭に瞬時に気持ちを切り替え戦闘態勢に入った。

シアンは再びハニーを抱き上げその場から飛び退く。マゼンタとソレイユもシアンについていくように走り出した。その刹那、戦士たちは一斉に撃ち始める。
しかしそれらの玉も先程と同じく、何もないのに“跳ね返される”。…これはきっと“紅の修羅”の能力だ。高速移動で避けられていることだけが理由では無い、とハーブはいち早く気付いた。

「ハニーさん、しっかり掴まってて欲しいのです!」

「は、はいっ!!」

「マゼンタ!ソレイユくんも!!シアンの髪でも何でもいいんで掴んでて欲しいのです!」

「そんなこと言ったら抜くわよ!!」

「それは困るのです!!!」

そう言いながらシアンの肩を掴むマゼンタに、ソレイユはどうすればいいか分からずあたふたする。そんな彼にイラっとしたのか、マゼンタはソレイユの顔面を掴んでシアンの背中に押し付けた。

「ぐえっ」

「アンタも早く掴まっときなさい!」


全員がシアンに掴まった瞬間、“碧”はその場から消えた。


「え……っ、消え…た……!?」

微塵の気配も感じない。
文字通り彼女たちはその場から消え去っていた。

「S級犯罪者組織…“碧”……」

早く長に伝えなければ。ハーブは急いで本部へと走った。



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