碧落ラストコネクション


「シアン様!!」

自室から戻ってきたハニーが、ソファで武器の手入れをしていたシアンに声をかける。夕食の準備をしていたマゼンタもそちらへ近づいた。

「おお!早いですね。どうでしたか?」

シアンの声に反応して、サルファーとソレイユもPCを開いたハニーの元へやって来る。ハニーは深刻そうな顔で、先程得た情報を見せた。

「今回は…今までにないくらい、壮大な計画です。下手したら、世界大戦にもなり兼ねない」

「…!」

「モノ、お願い」

《リョーカイ》

モノ・トーンが開いたフォルダの中から、大量の兵器の設計図のようなものが溢れ出た。

「こ、これ…!」

こういう物には一番詳しいであろうソレイユが目を見開く。彼の反応に、シアンは首を傾げた。

「ソレイユくん、分かるのですか?」

「お、おう…コレ、今世界で最も恐れられている大型爆弾だよ」

「…それ、どのくらいの破壊力なんや?」

驚愕で目を揺らすソレイユの反応に、余程の威力であるのは予想していた。…だが、それは予想を遥かに超えていた。


「少なくとも、国がひとつ…消えるくらい」


その言葉に目を見開く。
モノ・トーンは続けて別のデータを表示した。

《コレはワタシが侵入先の現実世界を記録したモノを、簡潔に纏めたデータデス》

「青の国の政府は、どこかの国にこの兵器を落とそうとしているようです。どこの国かは…皆さんも、もう分かっている筈です」

青の国がここまでして滅ぼしたい国。
長年、両国一歩も譲らず戦争を繰り返してきた、犬猿の仲。


「赤の国ね」


マゼンタの一言が妙に重苦しく感じた。
戦争を経験したことのないソレイユでも、この兵器の意味は充分理解できた。

「で、どうすんねんシアン。正直、国を出たオレらには関係無い話や。それに、ここは三大大国からも遠く離れた…黄の国領域外のトパーズタウン。当然赤の国からは距離もあるし、アジトに被害が及ぶ心配も無い」

サルファーの言い分は最もだ。国を出た罪人である自分達には、全く関係が無い。しかし、シアンの目は先程のデータから離れる事はなかった。

「…この実験というのは何なのです?」

「恐らく、赤の国へ落とすものの小型版を使用して、別の町でシミュレーションを行うのだと思います。場所は、赤と青の国を繋ぐ町…アメジストブリッジ」

「…そうですか」

シアンの脳裏に浮かんだのは、真っ赤な髪の少年。折角目をつけた者をこんな形で失う訳にもいかない。

「シアンたちの目的は、世界征服なのです」

いつもと違い真剣なトーンで放たれた言葉に、4人は気を引き締める。

「そのためには、“世界”が必要なのです。消えてなくなってしまってからでは、意味が無い」

「…!」

シアンの言葉に、4人は笑う。

「何や。やっぱシアンはシアンやな」

「ぼ、僕も…大型爆弾の構造、知りたいしね!」

「…母国が消えようが消えまいがどうでもいいけど。アンタがそう言うなら、協力してあげなくもないわ」

それぞれ反応はバラバラでも、思っている事は同じだった。

「シアン様、まずはどうしますか?」

《ドウシマスカー?》

ハニーとモノに促され、シアンは自信に満ち溢れた表情で答えた。

「取り敢えず、まずはアメジストブリッジへ行きましょう。ついでにあそこの名物の羊羹も食べるのです!」

「…完全に後者メインやろ。お前」

「あ、バレましたか」

「ま、今回はオレもついていくわ。ケータイ忘れたらアカンで」

「勿論なのです!!」

早速明日出発だと意気込む面々に、サルファーは呆れながらも笑みをこぼした。

「世界征服の為には“世界”が必要…か」

言い方を変えれば、青の国も黄の国も、赤の国も必要だということになる。

ここ最近じゃ金の為に動く活動がほとんどだった。多額の賞金首の暗殺、薬、他にも色々。世界を征服するなんて架空の悪役が言いそうな、叶いそうにない夢を持つ悪人は、今時シアンくらいだろう。

けれど、シアンなら。彼女なら、と期待している自分がいる。それはきっと、他のメンバーも同じ筈だ。

「(それにしても、コイツは何で世界征服しようなんて思いついたんや…?)」

サルファーはシアンの仲間になってかなり経つが、未だにコイツが犯した罪の真相はわかっていない。
殺し屋と言うには甘すぎるし、最凶と言うには優しすぎる。そんな少女が、人類滅亡の危機にまで追い込むようにはとても見えない。

誰が言い始めたか知らないが、“紅の修羅”とはよく言ったものだ。
殺気を纏い瞬殺し、髪を赤く染めるほど派手に暴れるそれは、まさに修羅。

「(でも、そんな奴の普段の姿がアレっちゅーのは誰も想像せんのやろな…)」

実際、ソレイユもそれを経験している。勿論、サルファー自身も。

「お〜いサルファー!今回のミッションはキミの力が要となる筈なのです!準備とかよろしくなのですよ!!」

「わかっとるわ」

黄の国以外なら、オレはどこへでもお前についていく。
想像出来んけど……お前が死ぬのだけは、見たくないんや。



***




「実験地はアメジストブリッジで本当に大丈夫なのか?」

「ああ。寧ろあそこ以外考えられない」

「あそこに何かあるのか?」

青に包まれた部屋の中、大量の図や資料、PC等機材が並ぶ机の前で、紺色のスーツを着た2人の男が話していた。

「さっきも言ったが、あそこにはフィリドール博士の研究所がある」

「そいつは何の研究者なんだ?」

1人の男が机にばら撒かれた資料を1枚手に取る。そこに書かれているのは、“秘宝”の一つ、アメジストについてだった。

「彼は、“秘宝”を研究する研究者の代表的存在だ。特にアメジストのな」


“秘宝”──世界に12個存在する特殊な力を持つ石。その力は人間の持つ能力に近しい…又はそれ以上と言われ、中でもアメジストは“操”の力を持つ、恐ろしい石だ。


「何もかもをコントロールし、操る力を持つアメジスト…それを使って、あるものを作っているらしい」

「あるもの…?」

「さあな…それは知らない。だが、人体実験を繰り返しているのは確かだ」

最近目立つようになった、アメジストブリッジに住む子供達の行方不明事件。その犯人が彼だと言う黒い噂が絶えない。実際、男もその噂を信じる1人だった。

「罪のない子供を使うとは…恐ろしい人だな。我が青の国では、普通重罪人を実験体として扱うが…」

「目的の為なら手段を選ばない人だ。今回の俺たちの実験には彼も協力してくれるそうだが…それがせめてもの救いだな」

フィリドール博士…アメジストを利用し、何を求めるのか。そんな研究者が、何故我々青の国に手を貸すのか。気になる事は沢山あるが、こちらの戦力が上がるのに越した事は無い。敵に回ると厄介な人物なのだ。

「アメジストブリッジに落とすのは試作品の方だが、本番では確実に赤の国を消す」

「漸くこの日が来るんだな…」

「今回は青の国四天王を出すまでもない。長も必要ない。我々青の政府だけで事足りる」

「いや、本番では赤の四天王が来た時の対策も必要だ。何人かは連れて行こう」


一通り話し終えた男2人は、そのまま部屋から出て行った。
彼ら以外にこの空間に人間はいない。だが、彼らは不運にもコンピューターの電源をつけたままだった。


人間ではない者が、この会話をも記録していたとは知らずに。



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