#01碧落に飛ぶ少女 E
「僕のこと知ってんのかよ、お前。だったら話は早い……僕に殺されたくなかったら、さっさと逃げな」
左手で爆弾を空中に投げ、再び左手に収める。その余裕な態度に、少年は眉をひそめた。
「…爆弾はもう投げないのかい?」
「はァ?だーかーら、逃げる時間を与えてやってんの!わかれよ!!」
少年の背に隠された少女はふと思い出す。彼の言う“どうしても殺さなければならない悪者”は、目の前のソレイユの事なのか。
それとも…
「…逃げないよ。キミは俺が殺す」
「ふーん…お前、強いの?」
「さあ?…どうだろうね」
ソレイユは少年をじっと見つめて挑発する。少しだけ笑みを見せた少年は、そのまま瞬時にソレイユへと近づいた。
「(速い…!)」
ドンッ!!
少年が大鎌を振り下ろそうとした後、咄嗟に投げたダイナマイトが爆発する。
爆風で少年の攻撃から逃れたソレイユは、少年の真っ赤な髪を見て確信したように笑った。
「お前…“紅の修羅”か?」
「えっ、“紅の修羅”?」
ソレイユの問いに、少年の後ろに隠れていた少女が小さく声を漏らす。その僅かな音を聞き取ったソレイユは、少女に呆れた目を向けた。
「お前…んなことも知らねえのかよ。これだからガキは…」
「む!?少なくともキミよりは年上なのです!!ピッチピチの18歳なのですよ!?」
「へぇ〜僕11歳。じゃあおばさんだね」
「お、おば…」
「…俺も18なんだけど」
7つ下の子供におばさん呼ばわりされショックを受ける少女を見て、少年は苦笑した。少女と同い年であった事にも驚きである。
ソレイユはそんな少女を見下すかのように説明した。
「“紅の修羅”…この世界の郊外部に住む人間を全員、1人残らず皆殺しにした“世界最凶”と言われるS級犯罪者のことだよ。有名じゃん」
「知ってるのですよそんな事くらい!!ヒーローさんが“紅の修羅”なわけないって言いたいのです!!!」
「…っは、どうだか………」
再びソレイユは2人目掛けて爆弾を投げる。少年は素早く少女を抱えて爆発から逃げた。
その姿に、ソレイユはニッと笑った。
「…その速さ、赤い髪、何より…その目。人ひとり殺せそうな殺気の篭った目……“紅の修羅”の特徴と、完全に一致する」
ソレイユは少年を指差して言い放った。
「“紅の修羅”…僕はお前を殺して、“世界最凶”になる!!!」
ドンッ!!!!!
今までで一番大きな爆発に、大樹が大きく揺れる。そろそろまずいと思った少年は、少女をソレイユから少しでも遠ざけるため、別の木の下へ連れて行った。
「キミはここにいて。…絶対に動かないで」
「ヒーローさんは…」
「俺は彼を殺しに行く。終わったらソフトクリームのお詫び…また別の甘いものでやり直すね」
「あっ…!」
少年はそれだけ言い残してその場から瞬時に去った。ここから少し離れた場所にある大樹に、2人の姿が見える。
大鎌を扱う近距離戦闘タイプの少年に対し、ソレイユは爆発物を扱う遠距離戦闘タイプだ。自分の方が部が悪い事は、少年自身分かっていた。
「勝敗は見えてる…僕の勝ちだ。今のうちに降参しておくのが、身のためだぞ」
「…悪いけどそれは出来ないな。キミはひとつ勘違いをしている」
「勘違い?…っは、僕に間違いなんてねぇよ!!」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!!
連続で投げられていく爆弾を、少年は次々に交わしていく。そのスピードに、少年は驚いていた。…けれど、追いつけない速さではない。
ついにソレイユの目前まで近づいた少年は、大鎌を思いっきり振り下ろす。確実に人の肉体に刃を入れた感覚はあった。……が、ソレイユは無傷だった。
少年の前で倒れて血を流すのは、今までこの場にいなかった、見知らぬ男。
「!?」
「ソレイユ…様……ご無事で、何より…です……」
男は蚊の鳴くような声で、ソレイユの無事に安息する言葉を漏らす。そのまま力尽き倒れる姿に、少年は息を飲んだ。
「……仲間がいたんだね」
「誰も僕1人とは言ってないだろ?……お前ら、全員出てこい!!!」
ソレイユがそう声を上げれば、大樹や他の木々から300人はいるであろう、大量の人間が姿を現した。
ソレイユよりも遥かに年上の男たちの集団に、少年は驚く。
こんなにも幼い子供に、これほどの部下がつくのか。
「相手は“紅の修羅”だ。けど大したことない。この人数なら勝てる…行け、殺せ!!!」
大量の人間が、一斉に少年を襲う。
少し離れた木の下から見えたその光景に、少女は思わず飛び出しそうになった。
ソレイユはその“一瞬”を見逃さなかった。
「(イイコト思いついた…!)」
ニヤリと笑ったソレイユは少女目掛けて爆弾を投げ飛ばす。まさか自分の方に来るとは思っていなかった少女は、反応に遅れてしまった。
「!!」
ドンッ!!!!
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