碧落ラストコネクション


目の前で大きな爆発が起こり、オレンジ色の煙に視界が霞む。
…けれど、痛みは少ししか感じなかった。

煙で思わず閉じていた目を開く。そこには、いないはずの少年の背中があった。


「…!!!」


少年からは赤い液体が流れていて、自分を庇ったのだと分かった。

「な、何で…」

髪と同じように赤に染まる少年の身体を見て、大丈夫か、なんて言葉が出るはずもなく。何故、どうして、と疑問だけが脳内を駆け巡った。
すると少年は、自嘲するように笑った。


「…ヒーローは……守りたいものを、守るものだから」

出血で立てなくなったのか、少年は片膝をつく。その姿に、ソレイユは嘲笑った。


「なんだ…“紅の修羅”も所詮この程度かよ…」


彼の部下は、依然として多いまま、彼の前に出ている。少女はその光景を睨んだ。
そんな少女の様子が癪に障ったのか、ソレイユは顔を歪める。


「…何だよその目。まさか僕を殺ろうってのか?」

「そのつもりですが、何か?」

「…はァ?…あっはははは!んなこと出来るわけないだろ!!“紅の修羅”に助けられるような無能なおばさんなんか、僕1人でも一瞬で殺れるよ」


少女がソレイユに言った言葉に、少年は目を見開く。…殺す?彼女が、あいつを?
彼女はただの一般人で、相手は幼いとはいえ部下を持つ犯罪者だ。勝てる筈がない。


「……っ、キミは早くここから逃げて!こいつはキミが勝てる相手じゃ…」

「ヒーローさん」


少女は片膝をつく少年の前に背を向けて立つ。持っていた大きなポシェットの中から、スカートと同じ紺色のケープを取り出し、肩に羽織った。
そんな少女の意図が、全く読めない。


「まさかヒーローさんが、初対面の人間にここまでするとは思ってませんでした」

「…………キミが、俺をヒーローだなんて言うから……かな」


これは本音だった。ただ、ソフトクリームの件で知り合っただけなのに。
少女は2つの団子状に束ねていた髪飾りを外す。澄み切った青空のような髪は、ほどかれても特徴的な髪型をしていた。

輪状の束が鎖のように繋がれた長い髪。
風に揺れるそれは、少女に似合って綺麗な碧(あお)だった。


「……赤は、良い色なのです。ヒーローの証じゃないですか」

「…!」


背中越しに笑う少女は、何者なのか。
少女はソレイユを見て微笑を浮かべた。


「さっきヒーローさんも言ってましたが、キミはひとつ勘違いをしているのです」

「……はァ?折角僕が逃げ道を作ってやってるのに、殺されたいわけ?」

「ここまでされて、逃げる気はないのです。それに殺されませんし」

「………ふーん」


少女の言葉に、ソレイユは目を細める。部下を一瞥し、指をパチンと鳴らすと同時に呟いた。

「殺せ」


ザシュンッ!
先程同様、部下たちは一斉に飛びかかる。しかし聞こえたのは、少女の悲痛な叫びではなかった。


「ぐああっ!!」

「がはっ……」

「うわぁあ!!」

次々と悲痛な叫びを上げる部下たちに、ソレイユは目を見開く。気が付けば少女は黒い雲型の、独特な形の刃物を持っていた。
たった1人の少女が、大量の人間の首を飛ばしていく。

その姿を見て、少年は自国の長からの任務内容を思い出していた。


『お前に、“紅の修羅”の暗殺を命じる』

『…………“紅の修羅”…ですか』

『知っているとは思うが…“世界最凶”と言われるS級犯罪者だ。“赤の国最強の暗殺者”であり、“世界最強の戦士”であるお前なら、きっと殺せるだろう』

『…その者の、特徴は?』


少年はあの時の長の言葉を、少女へと映した。


『──血に染まる真っ赤な髪、』


「ぐっ…」

「や、やめろ……殺さないでくれ…!!」

少女の空色の髪は、返り血を浴びて真っ赤に染まっていく。制止の声も虚しく、1人残らず殺されていった。


『殺気の溢れる鋭い瞳、』


少女の黒猫のように黄色い瞳が、ターゲットを掴んで離さない。


『光の速さで瞬殺する……まさに修羅』


肉体を切り裂く嫌な音が響く。全ての部下を容赦無く一瞬で皆殺しにした少女に、ソレイユは怯えていた。

「お、お前……何なんだよ………何者なんだよ……!!」

「…名前ですか?」



『世間での情報はここまでだ。…だが、我々赤の国は、その者の名前の情報を手に入れた。──名を、』



「『シアン・ミルラーシュ』と言います」


長の言葉と完全に一致するその姿に、少年は目を見開いた。


「ソレイユくん、キミにはまだ未来があります。なので殺しはしません。ですが…その代わり、ちょっと我々の組織に付き合ってもらいます」

じりじりと近付いてくる少女に、ソレイユは思わず後退りした。


「そ、その強さ…一般人じゃねぇ…!どこの国の戦士だ…?何者だよ……!?」


その言葉を待っていた、と言わんばかりに少女は笑った。



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