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「おー…モテ男になってる」
窓の外を覗いていると、どこかのクラスが体育の授業をしているのが見えた。
こないだ私の手によってイメチェンされた繋海遥果は女子からの熱い視線や黄色い歓声を浴びている。彼と同じクラスの小日向ゆかりも彼を見て驚いた様子だった。
本人も嬉しそうにしていたから、イメチェンは成功したってことでいいんだろう。よかったよかった。
窓の外に向けていた視線を机の方に戻す。さっさとこの書類を片付けねば……。
すると、コンコンとノック音が聞こえた。私の返事を待たないまま、その扉は開かれる。
「ただいまー」
「…おかえり、パピー」
「こら、パピーはやめなさい。せめてお父さんにして!あと今は仕事中だから、理事長って呼んで!!」
ここは北篠学園理事長室。
理事長を務める私のパピー、北篠靖彦(ホウジョウ ヤスヒコ)は他にもいろんな仕事を掛け持ちしていて忙しい人だ。
私はそんな忙しいパピーの手伝いとして、理事長代理を務めている。もちろん、この学園の生徒でもある。
ちなみに、パピーが忙しいのは理事長だからではない。
「今日は何の仕事で?」
「ラーメン屋の出前」
掛け持ちしている仕事の内容がアレなのだ。
進学校の理事長がラーメン屋の出前をしているなんて聞いたことがない。昨日は人気ハンバーガー店で接客を担当し、無料でスマイルしまくっていたらしい。
以前、何故仕事を掛け持ちしているのか聞いたことがある。その時パピーはこう言っていた。
『働いてお金がもらえた時の爽快感が好きなんだ!!』
全国の引きこもりニートに伝えたい。
政府から賞を貰っても良いレベルだ。
そんなんで爽快感を得られるなんてどんな感性しているんだ。
北篠学園は私のご先祖様が創設した小中高大一貫の学園で、後を継ぐのが運命的使命だったパピーは、仕方なく理事長をやっているらしい。
しかし、肉体労働の少ないこの仕事が心底嫌らしく、私に泣きついてきたほどだった。
『授業出なくてもいいから理事長の仕事やってー!!』
本人曰く、軽い冗談だったらしい。
だがしかし、授業を受けることがつまらなかった私にはスバラシな話だった。もちろん全力でOKした。
「明日は?ピザ配達とか?」
「それは先月やった」
「(やったんかい…)」
「ふふふ…聞いて驚くといいさ!実は……明日はお休みだよ!」
「……え?」
あまりの驚きに一瞬声が出なかった。
「一日中ここにいるから、久々に代理役お休み出来るよ!」
肉体労働大好きな色々と忙しいパピーがまさかの休み。何年ぶり?3年ぶりの休み…?
明日は平日。…つまり必然的に、私は授業に出なければならない。
「いやぁ〜まさかあの時、本当にOKするとは思ってなくてさ…たまには学生らしく、生活してみてよ!」
「いや、理事長の仕事好きだから別にいいんだけど…」
「良くない!!青春は学生時代にしか出来ないんだぞー!?これからも父さんはなるべく休むから、お前も青春してこい!!今年から高1…!JKなのは今だけなんだぞ!!」
青春に興味はない。 全然ない。
お願いだから働いて爽快感を得てください、パピー。
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