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午前8時30分。朝礼の時間まであと15分。
それなりに人が集まった時間帯に、教室に入った。
はじめての教室。だけど、勿論座席表も把握済み。たしか窓際のいちばん後ろ。
教室は、女子は各自数人のグループで固まっていて、男子も同じくまばらにグループ化している。男女くっきり分かれた、非常にわかりやすいクラスだ。
そのまま自分の席に着くと、前に座っていた男がこちらを向いた。
「えっ…北篠?」
「あ」
その顔には見覚えがあった。
黒髪のイケメン、豊島蒼維(トヨシマ アオイ)。学年2位で学園5位の成績優秀者。
だがしかし、超サボリ魔。
以前、仕事を終え暇人と化した私が屋上に行った時にはじめて出逢い、仲良くなった男だ。
その外ハネの綺麗な黒髪は、昔より少しだけ襟足まて伸びていた。
「お、お前…仕事は?なんでここにいんの?」
「パピー、3年ぶりの休み」
「あの人どんだけ働いてんだよ……」
お盆やゴールデンウィークすら働く男だ。
ただ者ではない。
「初教室記念日だよ今日」
「このクラスってのは知ってたけど…来ないと思ってた」
「私もそう思ってたよ…」
豊島は私が理事長代理であることを知る唯一の生徒だ。授業はサボるが部活はサボらないらしく、陸上部ではいろいろな大会で賞を貰っているという。
「じゃあ、今日限り?」
「…………そうであってほしかった」
「え…まさか」
「パピー、これからなるべく休むってよ」
豊島は私に哀れみの視線を向けた。
やめなさい、悲しくなる。
「まあ、オレとしては嬉しいけどねぇ」
「嫌味か、サボリ魔」
「初教室のキミに言われたくはないかな〜」
コイツもかなりのイケメンな上に、頭も良くて運動神経も良い故にモテる。顔が良くて完璧な人間はモテる相場が決まっているのは昔からか……。
そんなことを考えている中、一つの視線を感じた。
ベクトルの出どころを見ると、繋海遥果がこれでもかというほどに目を見開いていた。
「みっ…見つけたーーー!!!」
繋海はものすごい勢いでこちらにやってきた。
「お前っ、同じクラスだったのか!?名前は!?あっ、俺は繋海遥果!繋がる海って書いて、繋海な!」
強烈な早口マシンガントークだった。
豊島が若干引いている。
「俺、あの時のお礼がしたくて!!」
「…別に礼とかいらないんだけど」
「それじゃ俺が困る!!マジで感謝してんだよ、なんか欲しいもんとかあるか?」
イメチェンして大成功したお礼がしたいらしいが、私は頼まれてやったわけではないから特に何もいらない。
まあ、今欲しい物といえば………
「…お茶」
「は?」
「喉、渇いた」
「…え、それだけ?」
「玄米茶を望む」
繋海がマジ?という顔をしていた。
喉が渇いたのはマジだ。玄米茶が好きなのもマジだ。
そんなことより気になるのは数多くの視線。
今まで、イメチェンしたせいかクラス中の視線を浴びていた繋海遥果が突然大声を出し、見たこともないであろう私の元へやって来た。誰?という視線がエグい。
「初教室だから、余計目立ってるね」
「うるさいだまれ」
豊島が小声で話してくる。…ちょっとニヤついているのが腹立つ。その顔やめろ。
「わかった!明日、玄米茶持ってくるな!!」
繋海がそう言ったその時、教室の扉が開いて先生が入ってきた。
「はい、席つけー………って北篠!?」
こちらの人物も仕事で把握済み。
このクラス…高等部1年Sクラスの担任兼数学教師の高橋先生は驚いてこちらを見た。
先生の声に押されるかの如く、教室中の生徒がこちらを向く。
「 お前…!やっと授業受ける気になったんだな!!理事長は元気か?」
「私に媚び売っても給料は上がらないんで心配しないでください。元気です。」
「ええ!?いやそんなつもりじゃなくて!」
バッサリ言った私に高橋先生は項垂れる。前席の男の肩が小刻みに揺れているのが見えた。
この学園の先生は全員、私の事情を知っている。パピーが会議かなんかで言ったんだろう。
私が理事長の娘であり、理事長代理という権力を持つためか、やたら媚びを売る先生が多いのだが、高橋先生は特に媚びを売るような人間ではないのでなかなか好印象だ。
HRが終わり、授業が始まってもなお、視線は多数感じていた。
そりゃ朝からイケメンと化した繋海や元からイケメンな豊島と話しているんだから無理もない。 もちろんはじめて見る顔だからという理由がいちばん強いだろう。
そしてついに、休み時間に話しかけられた。
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