それぞれがそれぞれの場所に散っていったけどそれでもこの大人数。
ま、落ちる気はしないけど。
ふと隣にいる男の子が視界に入った。
やばい顔をしている。見なかったことにしよう。しかもずっと手のひら爆発させてる。
そうか、こういう人もヒーローを目指すのか。
人を殺めたこのとある私が言う資格なんてないけれど。
大きな声が鳴り叫ぶ。
「ハイスタートー!どうした?実践じゃカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?」
それを聞き周りの受験生たちは走り始める。
(…出遅れた)
ここに生れ落ちてからというもの前世で培ってきた危機感というやつが根こそぎ失われている気がする。やはり考えるのはもしこれが実践だったら死んでたということ。
一人ぽつんと取り残されてしまったが、逆に好都合。
私の個性届けは「砂」と出されている為最悪の場合を除いて人前で忍術を使わないと自分の中で勝手に決めたのだ。
だがしかし、今一人出遅れている。これは最悪の事態だ。おまけに人はいない。なら使おうではないか。
(瞬身の術・・・!)
瞬身の術を使い人の合間を縫っていけば先頭に躍り出た。仮想敵がいっぱいいる。
それからは仮想敵が現れる度、我愛羅の砂を操って敵を生け捕りにする
皮肉なことにも私の個性は前世で最後に殺した相手の能力が“個性”として備わったのである。一瞬仲良くなった我愛羅ではあったが…まさか自分を殺した相手が自分の技を真似て戦っているなんて思いもしないだろう。我愛羅ごめんね。
模擬市街地ということもあり砂はそうそうないため周りの落ちているかすかな砂と自身の体の一部を砂に変えた分しか扱えない為砂を輪っか状にして敵を捕らえそのまま真っ二つにする方法だ。
時間のカウントダウンを聞きながら同じ動作を繰り返す。
すると上から人の声が聞こえてきた。
「やべっ!!落ちる!!!……ぐっ…た、助かった…?」
人が上から落ちてくるという状況を理解した時には時すでに遅し。
すごい勢いで下敷きになりそうだったため砂で自分をガードしてそのまま滑り台状にしその人を地面に下す。
「お!わっ、悪ぃ!!怪我ねーか!?あ、助かったぜ、ホントにありがとな!!」
赤い髪の少年に爽やかな笑顔を向けられてるがもう時間も残り少ないのだ。足を動かさなければ。思わぬところで足止めをくらってしまった。
「・・・・じゃ」
そう一言いい残してその場を立ち去ろうとしたら、目の前の男の子も歩きだそうとした瞬間に表情を歪めた。
「‥‥っく…痛ってぇ。まじかよ…俺、絶対にヒーローにならなきゃいけねぇのに…!!」
どうやら足を痛めてしまったみたいだ。
「絶対にヒーローになるって…!」
そういった少年の目は、再び金髪の火影を目指すあの子を思い出させた。
はぁ、こういうの柄じゃないんだけど。
そう思いながら印を結んで足に手を当てる。
「
淡い光に包まれた少年の足は痛々しい赤色から通常の色へと戻っていった。
「お前…!っんとに、本当にありがとうな!!助かった!!時間もねぇ、絶対お互い受かろうな!!!」
そういうと少年は走り去った。
医療忍術くらいは人前で使うのを許してくれ。でないと助けられるもんも助けられなくなる。
周りを見渡せばもうほとんど仮想敵は倒されていて生き残っているものはいない。
まぁ最初にぶっ放して倒してったから合格点はいってくれているだろうけど。
焦らず生き残っている仮想敵を探して倒していくか。
そう思った矢先右側の死角から今まで見たことのない大きな仮想敵が現れた。
(これはなかなかの大物…倒せばそれなりの点数になる?)
仮想敵を倒すことだけに集中していた私は“お邪魔虫”の存在のことなどすっかり忘れていた。
個性も試してみたいし。
先ほどと同じような作戦で行くがやはり大きさ的なものであまり効果がない。
時間もないのでしょうがないから体術だけで倒すことにしよう。
チャクラを足に集中させて大きい仮想敵の頭まで登ると、今度は下へ向かいながら仮想敵の壊れるツボをついていく。
下まで降りきると、後ろの大きい仮想敵は動かなくなり、やがて機械の壊れる音とともに大きく倒れた。
「個性、使うまでもないね」
そう呟いたのと同時くらいに終了の合図を言い渡される。
さて試験は終わったのだ、帰ろう。
「お疲れ様〜お疲れ様〜ケガした子はいないかね?」
遠くからおばあちゃんのような可愛らしい声が聞こえてくる。ひそひそと聞こえてくる噂話によれば彼女はリカバリーガールというらしい。
チューをすることで治癒ができる。なんて便利な個性だ。
私は特に怪我をしていないので門へ向かう。
その時目についた少年。
試験が始まる寸前に気になった顔のヤバい子だ。
「ん‥‥」
なんて声を掛けたらいいのかわからずとっさに腰当たりの服をつかむ。
「ああ!?何だテメェ!?!」
すごい睨まれてしまった。本当にこの人ヒーロー科…?
「腕…怪我してる」
「‥…ハァ!?んなのヨユーだヨユー!!!んなことで俺に触ってんじゃねェ!!砂女ァ!!!!テメェあれか?試験余裕だったからって自分より弱そうな奴にんな風に声かけて恩うろってんのかァ!?クソ!!」
え、この人マジでやばいやつじゃん。てか私の個性…戦い方見てたのか。
「いいか、俺は雄英に入る。きっとテメェも雄英に入るだろーよ。今回の試験、ロボットが相手だったから手ェ出しァしなかったが、対人戦でテメェと当たったら完膚なきまでに叩きのめしてやんよ!!!わかったかァ!!!!」
「‥‥‥」
ヤバすぎてなんて返したらいいかわからないけど、とりあえずその怪我放置だけはまずい。
リカバリーガールの所に行かなかったのはきっと彼のプライド的なものなのだろう。
彼の性格から考えると家に帰っても放置か簡単な処置ですましてしまいそうだ。
「‥‥手、出して」
今度は振り払われようが何だろうがその前に印を結んで怪我したところに手を当てていく。
「その傷、ほっとくと酷いことになるから…はい、終わったよ」
「てんめぇ…!!」
先ほどよりも目を吊り上げて怒る彼にこれ以上はやばいと思って直したと同時に彼から離れる。後ろで何やらめちゃくちゃ怒鳴っているのが聞こえたけど、やはりあのままその場にいなくてよかったと心から思った。
受験日から1週間。
実家に届いた一通の手紙。
それは雄英から合格を知らせるものだった。
父上と母上はそりゃもう盛大に喜んでくれて、雄英に通うのならばここからは遠いだろうということで入学までの一週間前に雄英高校近くに引っ越しをすることとなった。
それは私にとっては大問題で、ショックな出来事だった。
二人を喜ばすためにと雄英を受け、合格したのはいいもののずっと一緒にいたいと願った両親から離れてしまう結果になるなんて…
なんてアホだ、なぜ気づかなかった…今更遅いが雄英の合格をいまだに喜んでいる父上と母上を見ると泣きそうだった心も自然とやる気に満ちた。
引っ越し当日、父上と母上は泣いていた。
私も泣いていた。三人で玄関で大泣きした。
「砂子〜砂子〜〜!ついに行くのか…!寂しくなるなぁ!!!」
「ジロウさん!そんなこといわないでっ…!私まで寂しくて涙が止まらなくなっちゃう…!」
「父上っ!母上っ!!どうか体には気を付けてお元気で…!」
「それは砂子もよ‥‥!」
「うっ、うっ…!父上、母上、大好きです!!!それでは行ってまいります!!」
まさか私から二人の元を離れてしまう日が来るなんて。
大丈夫、大きな休みの時には必ず帰るから。3年間しっかり学んだら必ず二人の元へ帰るから!!
そう意気込んで私はヒーローという新しい道へ一歩歩きだした。