入学
朝、私はここに生まれてから初めてというくらいの速さで仕度をしていた。
理由は簡単。寝坊したのだ。
今までは寝坊しても父上と母上がいたから寝坊することはなくなったものの、一人暮らしを始めて早々こんな失態を犯すとは。
寝坊したのはいつぶりだろうか。昔から朝は得意でなかった。アカデミーにもよく遅刻していた。そのたびに三代目火影に怒られていた。三代目の孫である木の葉丸に関してはよくその様子をなぜか憧れのまなざしで見られていた。アカデミーを卒業して下忍になった頃もよく寝坊してカカシ先生に怒られていた。…あの、遅刻魔のカカシ先生に。
カカシ先生が遅刻する日は私はちゃんと来ていて、私が寝坊する日はカカシ先生がちゃんと来ていて。そんな私を朝迎えに来ては怒りながら任務場所まで瞬足で運んでくれる、よくある日常だった。サスケが里を抜けたあたりだったか。その時にはすでに自分で時間通り起きられるようになっていた。それでもよくカカシ先生は任務がある日迎えに来てくれていた。私が時間通り起きれるようになった時のあの驚いたような寂しそうなカカシ先生の顔を私は一生忘れないだろう。現に一回死んだ今でも覚えている。
そんな懐かしいことを思い出しながら玄関のドアを開ける。現在時刻8時ちょうど。
入学案内には8時10分までに教室にいるようにと記載されてあった。
忍術をなるべく人前で使わないようにしている私はとにかく必死に走った。
瞬身の術を使わずとも私はそれなりに早い。限度はあるが。
家から徒歩10分のところ全力疾走で8時6分には靴箱についた。よし、これなら間に合う。
誰もいないことをいいことにここでやっと私は瞬身の術を使う。
(1−A…1−A…)
自分のクラスの標識を探しながら走る。
あ、あった。なんとか間に合いそうだ。
数メートル先に見えた標識にほっと胸を撫でおろし教室の前で足を止めようとしたとき、黄色い何かが横切った。
(って、え!!足元!!!急には…)
「お友達ごっこしたいなら他所へ行…「止まれない!!」っぐ!!」
足元に転がった黄色い何かを私は勢いよく蹴飛ばしてしまった。ついでに言うと私はこけた。
「「「「えええええ!?」」」」
その転がったものは人だったようでゆっくりと立ち上がりながら何もなかったかのようにこう言った。
「ここはヒーロー科だぞ」
コケている私を尻目に無情にもチャイムは鳴る。
「砂像砂子。入学初日にして遅刻だ。…はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね。担任の相澤消太だ。よろしくね」
のそのそと黄色い寝袋から出てきた男は廊下で倒れている私を無視してそう続けた。
たん…にん…?え、私入学早々担任蹴ったの?
ゆっくりと上体を起こす私を置いて、話は進む。
担任と名乗った男はさっきまで入っていた寝袋からジャージを取り出した。
「早速だが、これ着てグラウンドに出ろ」
そう放つと教室から出ていく。いまだ廊下にいる私にしゃがんで目線を合わせ話しかけてきた。
「いつまでそうしてる?さっき言っただろ、時間は有限。はい、コレ君のね」
渡された体操着を受け取るとポンポンと頭を撫でてきた。ここでやっと担任の顔をちゃんと見た。…なんとなく見たことがある気がするが、思い出せない。雄英はプロヒーローが教師をやっているらしいからきっとメディアか何かで見たのだろう。ここでたった数日前の出来事を思い出せなかった私は本当にバカなのだと後日思うのだった。
…てか、
「さわっ…触るな…!」
一応先生ということなので邪険にはできない。怒鳴りたかったが我慢して小声でつぶやく。
せめてもの抵抗だ。
そんな言葉が聞こえたのか担任はひらひらと手を振って去っていった。
そんな彼が人知れず口角を上げていたなんて私は知る由もない。
てかこの体操着…
(温い…)