十五分



このまま眠ればしあせな夢が見られるような気がした。
暖房が効いてあたたかい部屋の中。時計の秒針の音が子守唄のように聞こえていた。
「なんだ、眠いのか?」
「ううん、へいき」
「眠いんだな」
平気だと言ったのに、しょうがねェやつ、とエースが静かに笑う。
「飯食った後に眠くなるとか、おれのこと言えねェじゃねェか」
「んん、だって」
「何だ?」
「なんだかね、エースと一緒にいると安心しちゃうの。だから眠くなる」
あ、眠くなるって言っちゃった。でも、まぁ、いいか。誤魔化してもしょうがないし。安心するのも本当で、眠いのも本当。だって、ご飯を食べてお腹が満たされると体が重くなる。身体の先、頭と指先とつま先が一番重たくなって、普段は思い通りに動くのにこの時ばかりは言うことを聞かなくなる。しかたのない自然現象だし、誰かさんみたいにお皿に顔を突っ込まないだけいいと思う。
「……お前なぁ、もっと危機感持てよ」
ラグの上に座って、ソファーに寄りかかって、座面を枕のようにして頬をつけているわたしに合わせて、エースも隣に座る。
いつもは見上げている目線が、より近くにある。黒い瞳はじっとわたしを見つめているけれど、その輪郭はやさしかった。甘いまでもいかないやわらかさ。彼がよく仲の良い兄弟を見つめるときの眼差しに似ていた。
「ききかん?」
「そーだよ。男はな、好きなやつが目の前で無防備でいると、いろいろと我慢しなきゃなんねェんだ」
ああ、それは大変ね。と、ぼんやりとした頭で思いつつ、いよいよまぶたの重さに抗えなくなってきた。ソファーのたて糸とよこ糸が目立つ生地をじっと見つめていると、風船のように、あっという間に意識が飛んでいってしまいそうだった。
そんなことを考えていたら、一本の糸をつーと引かれたような感覚があった。
「なあに、」
風船が飛んで行かないように、そんな仕草の指先が頭の上にやってきていた。
エースはわたしの訊いたことに、うん、と喉の奥で返事をしただけで。わたしの髪を一束、指先で引っかけては離し、離しては引っかけるのをくり返すだけだった。
わたしはされるがまま、変わらずたて糸とよこ糸の迷路を目で追っていた。そのうち、エースの指先が前髪をかき分けてなでつけたり、すいすいと毛先まで滑って行ったりと自由に遊びだしたから、それまでよりも一段と頭がぼんやりとしてきてしまった。
「なでるのやめてよ」
「嫌か?」
「ほんとに、ねむくなってきたから」
「寝てもいいぜ、後でベッドに運んでやるよ」
「やさしい」
「好きなやつにはやさしいんだよ、おれは」
「んん、ふふ、おかしい」
さっきまで小言を言っていたのに、結局は許して、やわらかく包むような心づかいがくすぐったい。さりげなく好きと言われるのも、寝かしつけるように髪をなでられるのも、全部。
だから、わたしは許されているのをいいことに開かないまぶたへの抵抗をやめて、そっと深呼吸をくり返すのだった。

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