2mm
「知ってるか?」
いつもより、より低く、より静かな声とともに、指先が伸びてくる。
「耳の後ろの、この辺りに、ほくろがある」
あたたかい指先が触れてかき分けたから、隠れていた耳がさらされて、すっきりとした感覚が顔の横に生まれた。ローの指先は、きちんと爪が切りそろえられていて、荒れてもいないし、ささくれもできていない。とてもなめらかなおかげで、わたしの髪や耳の後ろの生え際にふれていても、少しも引っかからない。
「そうなの?」
「この間見つけた」
知らなかったと呟けば、ローは満足気に笑って見せた。
「お前が知らないことをおれが知ってるってのは、いい気分だ」
気分がいいのは、お酒を飲んでいるせいでもあると思うけど。テーブルに置いてあるグラスは、中身がほとんど空だった。新しく注ぎたすこともなくソファの背にもたれながら、いまだわたしの耳の後ろや髪にふれていた。
わたしも同じようにソファに深く座りながら、まだ中身が残っているグラスに口をつける。
ローは酔いが回ってくるとわたしの世話をやくようになる。いまもこうして髪にふれて指先でとかしているけれど、ほかにも爪を切ってくれたり、ハンドクリームをよく塗りこんでくれたり。一緒に飲むのはほとんどが夜で、あとは寝るだけだからとてもラフな格好をしているし、化粧だってしていないのに、ほんの少しだけお手入れをしてくれて、それから必ずきれいだと言ってくれる。
飾らないままの姿をほめてくれるのはうれしいけれど、おなじ量の恥ずかしさもある。わたしはいつもお酒のせいなのかそうじゃないのかわからないあたたかさを全身に感じながら、ため息をついて眠ることがよくあった。
きっと、とても、愛されているのだと思う。静かに沁みわたるような愛情。髪をとかしていた指先は、いつの間にか手のひらにかわっていて頭をすっぽりおおっていた。てっぺんから、ゆっくりと、乾いた手のひらが毛先まですべり落ちていく。
わたしは変わらず好きにさせていた。グラスの中身はローのものとおなじく空になった。今度はローの手のひらが左手首に絡みついた。ほくろがあると言った耳の後ろから流れるように、肩から腕を伝って、あっという間に自由を奪われてしまった。
「細いな」
「そう?」
「でも、いい腕だ」
「そう」
「きっとおれ好みの骨をしてる」
「ローは骨が好きなの?」
「お前のな」
骨が好きというのはいまいちよくわからないけれど、ローがうっとりとわたしの腕を見つめてキスをするものだから、きっととても好きなのだろうと思うことにした。
手首の内側、血管が薄く見えるところからはじまって、少しふくらんだやわらかいところまで。
何度も、何度も、唇がふれて、そのたびに吸いつく音がする。
「こうして触るだけで何でも伝わっちまえば早ェのに」
肌から唇を離さないまま、ローはそんなことをささやいた。
声の振動と吐息が、くすぐったかった。
「わたしに何を知ってほしいの?」
一度だけ、深く息を吐いた。
今日は手首がやけにあたたかくって、しょうがない。
「おれがお前を愛してることについて」