愛とは見てしまうこと



眠り姫は十五歳になると百年の眠りにつく呪いをかけられた。
眠るナマエを見ていると、ふとその童話を思い出す。
茨に囲まれた城の中。いつまでも若い姿のままで眠り続ける美しい姫。あまりに美しい姿だったから、王子は姫にキスをする。すると呪いが解けて、姫が目を覚まして、めでたし、めでたし。
ベッドの上に眠るナマエの腕をとり、脈をはかる。皮膚の上から感じる血の流れ、生きている音。揺り起こすその前に、命そのものを感じることが、おだやかな寝顔をながめるのとおなじくらい好きだった。
おれはきっと、ナマエが生きていてくれることに感謝している。どうしてそんな大げさなことを考えるのか自分でもわからない。けれど、こうして眠りから覚ます役を担えることは、他の誰でもないおれだけの特権のようでとても誇らしく思える。
まつ毛が震え、閉じていたまぶたがかすかにひらいたのを見た。
最初に目にうつるのは、きっと、おれだ。
「あら、」
まどろみから抜けきらない瞳が宙をさまよっている。
長い眠りから帰ってきた彼女に、自分の存在を気づかせるように前髪をなでて、頬にキスをした。
「おはよう」
「ん……おはよう、」
起き抜けの声はかすれて、舌足らず。ぼんやりとした表情は普段と違いどこか幼く見えて、いちだんと庇護欲をかき立てられる。
きっと、姫の目覚めを間近で見た王子もこんな感覚に陥ったのかもしれない。目が合って、眠気のせいでぎこちないほほえみを投げかけられると、そのかわいらしさに息を飲むし、何度だってキスしたくなる。
そんなことを思っていると、ふと目の前に腕が上がり、やわらかな手のひらがおれの髪に触れた。
感触を楽しむような手つきですいて、そのまま頬をなで、首筋をつたって肩へとすべり、軽い音をたててシーツに落ちた。
「ろー、」
「あぁ」
「ほんもの、」
「そうだが?」
きっとまだ寝ぼけているのだろう。
力が抜けて落ちた手を拾いにぎりしめて、もう一度頬にキスをすれば、ナマエはまだ眠そうな目を溶かしながらほほえんだ。
「ゆめでね、会ったばかりなんだよ」

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