抱きしめても、イイですか
おれだって男なんだ、やれば出来る。
かしこまらなくていい。腹が減ったとか、眠くなってきたとか、そんなふうに。
なんでもないように、ただ言えばいいのに。
出した言葉は、おれの意思に逆らって勝手に飛び出したように、ひどくしどろもどろで、たどたどしかった。
ああ、違う。そうじゃない、と軌道修正しようとしたけど、声が上手く出なかった。
自分が情けなくて、恥ずかしくて、顔から火になっていきそうなのを堪えるのに必死だった。
「いいよ」
そんなおれとは裏腹に、ナマエはいつも通りの笑顔を浮かべながらそう言って、両腕を伸ばして広げてみせた。
悔しかった。ナマエの余裕な態度のせいで、まるでおれ一人が求めているようで。
本当はナマエの方から来てほしいのに、そうしたらおれは海よりも広い心で受け止めてやるのに。
むしゃくしゃしてしょうがなくて、ぶつかるように目の前の身体を抱きしめた。
ナマエは「わっ、」と小さな悲鳴をあげたけど、そんなのは無視だ。
「苦しいよ」
「うるせェ」
「そんなにぎゅうってやらなくても、わたし逃げないよ?」
「ぎゅうってやらなくても逃がさねェよ」
「もう、エースってば……」
腕の中の身体がため息混じりに笑う。耳元で聞こえる声がくすぐったくて、そのせいでおれの身体の中がどんどんあたたまっていくのを感じる。
やわらかい。あったかい。はちみつをたらした焼き菓子みたいないい匂いがする。
抱きしめているのは間違いなくナマエなのに、言葉で上手く言い表せない不思議な感覚を抱えているような気がして。
でもそれが嫌ではなくて。
もしかしたら、こういうものが幸せとか、そんなもんなんだろうなと柄にもなく思った。