求めよさらば与えられん
例えば、呼び止めるために肩を叩いたり。遊びに行こうと誘うときに手を引いたり。人混みではぐれないようにとか、食い逃げして追われているのに遭遇したときは手首をつかまれたり。珍しいものを見つけたからと、それをわたしに見せるときなんかは腰に腕を回していたり。
エースはよく、わたしに触っている。それなのに、面と向かって手を繋いでと頼むと、ひどく尻込みする。
「おれは火だから、お前に触れねェよ」
お前は燃やしたくねェ、とはっきりと告げられて、胸に大きなひび割れた感覚が走った。
おかしい。あんなに、今まで触ってきたのに。いまさら出来ないなんて言われたって。おかしい。絶対におかしい。
どうしても納得できなくて、それからほんの少し馬鹿馬鹿しくなって、わたしは勝手に手を伸ばしてエースの手のひらを握った。
「おい」
「エースの意気地なし」
「はぁ?」
「わたしは燃やされたっていいよ」
「いや、よくねェだろ。離せ」
「やだ」
触れているから、大きなあたたかい手のひらが困り果てているのがわかる。指先は幾分冷えて、かすかに震えているのに、手のひらはしっとりしていた。
「あのね」
今度はしっかりした腕に自分の腕を絡める。ただ手を繋ぐよりも、互いの距離がうんと近くなる。エースは肩を張って、目を白黒させている。わたしはそれをわかっていながら、悲しみを主張するためにわざとらしくため息をつく。
「やけどするより、好きな人に断られる方がもっと傷つくんだよ」
目線を落としてうつむきながら、エースの肩にぴったりと頭をつける。触れている部分の熱があがっていくのを感じる。
「…………なぁ」
低く、静かな声が降ってきた。顔を上げると、冴えた黒い瞳がじっとわたしを見つめていた。
「あんま、煽るなよ」
やさしく叱るような口調で、けれどどこか楽しげに頬を緩めたのが気になった。それから、いつの間にか手の自由が利かなくなっていた。一方的に繋ぎ止めていたはずなのに、見れば、エースの手がわたしの手を握り込んでいて。
これは望んだ形だけど、今度はわたしが手のひらをしっとりとさせる番だった。