眠る人
ふと、あたたかな気配に目が覚めた。
眠りという水底から、ゆっくりと水をかいて、浮き上がる。水面から顔を出して息つぎをすれば、そこは見慣れた自分の部屋。そして、薄闇の中、横になっているローを見下ろす影がベッドサイドにあった。
「な、んだ、おまえ、」
それから先は上手く口が動かず、続けようとした言葉は尻すぼみに消えていった。まだ意識は覚醒していない。ぼんやりと薄闇を見つめる。目は開けているけれどまぶたは重いし、きっと思っている以上に開いていない気がする。
おれは寝てェんだよ。まだそこにある気配に向かってローはそう言ったが、はたして本当に声に出したのかはわからなかった。わからなくても、どうでもいい。とにかくもう一度眠りにつきたかった。
「うん、ごめんね」
それはやわらかい声だった。夜のしじまを切り裂かないよう、ローの寝入りを妨げないよう、静けさに溶かすような小さなものだった。
寝てていいよ。そうしてあたたかな気配は──寝ぼけ眼のナマエは流れるようにローの隣に体を滑りこませて、向き合う形で横になった。
「…………自分のベッドに戻れよ」
「一人だとシーツが冷たくて」
ナマエは目を閉じたまま、もぞもぞと足を擦り合わせて。ローは境界線を敷くように胸の前で腕を組み、眠りにつこうとするナマエを眠たげな目で見つめていた。
「なにかあっても知らねェぞ」
忠告する言葉は鋭くあるべきだ。けれど、やはりローの口から出た声は、どこかやわらかく、水面へ上がっていく泡のように頼りないものだった。
「ローはそんなことしないよ」
そして、ナマエの声も同じように、ふわふわと宙に浮いているようだった。それから次第に強烈な眠気に襲われる。一つのベッドの中に、二つの心地よい体温がある。そのおかげで、夢の中へと舞い戻るのに時間を要さないでいた。
「どこからそんな自信がくるんだ」
「だって、とても眠そうだから」
ああ、眠いよ。たしかに、とても。まぶたは完全に閉じられ、口も動くことはなく、少し冷えたナマエの爪先が足に絡んでくることを許しながら、ローの意識は薄闇へと溶けていった。
title by 宵闇の祷り