置き去りのアールグレイ
朝の冷たい空気を、肌で感じて目が覚めた。
目覚まし時計を確認してから、伸びをして、だるさの残る身体を起こす。床に落ちた服を拾い、下着だけを身につけて、あとは洗濯かごの中に放り込んだ。
ふわ、とあくびをしながらダイニングの椅子にかけていたロング丈のカーディガンを羽織り、キッチンに立ってやかんに火をかける。いつも通りの朝。コーヒーにするか、紅茶にするかは気分次第。
コーヒー豆、ドリップ用のフィルター、スティックタイプのインスタントコーヒー、紅茶の葉の缶が入っている棚をのぞき込みながら、またあくびをひとつ。シンクに置いたままにしてあったマグカップを洗っていると、床を踏む音が近づく。気にせず泡立った洗剤を流していると、お腹にぐるりとしっかりした腕が回った。
「なんで隣にいねェ」
寝起きでかすれた低い声が、耳のそばで骨を伝って、頭に響く。
「おはよう」
「隣にいろ」
「おはようは?」
「……おはよう」
不機嫌そうに言うわりには、わたしの肩口におでこを押しつけて、ぐりぐりするからかわいらしい。
見た目よりやわらかい髪が、さらさらと首筋をくすぐる。
「くすぐったい」
「まだ寝ててもいいだろ」
「たくさん寝たでしょ」
そういさめたつもりだったのに、小さなわがままをつむぐ唇が、首筋に当たった。髪が触れるのとは違う感触がむず痒くて、ロー、と名前を呼べば、耳の軟骨のところをがぶりと食べられてしまった。
歯が当たる感覚に肩をすくめると、流しっぱなしにしていた水にマグカップの底が当たって飛沫があちこちに散った。ああ、拭かないと。マグカップを置いて蛇口を閉めたちょうどその瞬間に、顎を掬われ、唇を塞がれた。
触れるだけのものを何度かくり返してから、自然な流れで深い口づけへと変わっていった。舌先で歯列をなぞられて、背中がぞくぞくして。息つぎの合間に漏れる吐息に熱がこもりはじめて。
朝の爽やかさなんて消し去るくらい不釣り合いな濃さで、少しして唇が離れたときにはシンクの縁を力強く掴んでいた有様だった。
「今日は休みだな」
「……だめ」
「そう言うな、二度寝するだけだ」
おれは眠ィ、とまたわたしの首筋に顔を埋めて、退こうとはしなかった。
お茶が飲みたかったのに、と内心抗議する。手を伸ばしてコンロの火を止めると、まるでわたしがそうするのをわかっていたかのように、ローは抱きしめている腕に力を入れた。
「今日だけだからね」
そう言えば、彼は顔を上げて満足げににやりと笑う。それがちょっと憎らしい。
結局わたしはローにとびきり甘くって、けれどそんなわがままなところが、まぁ好きだったりするのだった。