知らぬ顔の、



サンジくんは気配に敏感。わたしが女だからとか、見聞色の覇気に秀でてるからとかだけじゃなくて、もともとの性格なんだと思う。それはとても良いものだけど、たまにがっかりしてしまう。ちょっとしたいたずら心でおどろかせたいときなんかがそう。だって彼ってばすぐ気づいちゃう。目尻を下げて微笑んで、とびきりやさしい声でわたしの名前を呼んで、彼が特別だと言って作ってくれるデザートみたいに甘い態度をとる。そんなことが何度かあったから近づく前にふり返らないで、と一度言ってみると彼はとても困っていて、でも無茶をふってくるレディもかわいくて素敵だとなぜかほめられて逆に困ってしまったことがあった。けれど、そのおかげで別の楽しみが見つかった。やさしい彼はわたしがちょっとした企みを抱えているとき、気づいているのに知らないふりをするようになった。今もそう。甲板の手すりにもたれて煙草を吸っている。わたしは後ろから彼の背中をそっと見つめている。視線にはしっかり気づいているはず。がんばってそっぽを向いてるのがわかる。それがおかしくてつい笑ってしまいそうになるけど我慢して、足音をひそめて近づく。「わっ」と声を出して、お腹にぐるっと腕を回して抱きついた。彼は細身に見えるけど、実は身体がとってもしっかりしてる。頬をくっつけている背中もとても広い。耳を当てると奥から忙しく動く鼓動が聞こえてくる。「すごい、ドキドキしてる」とわたしが言えば、彼はいつものやさしい声で「レディがかわいいことするからさ」と返して、こちらをふり向いてはにかんだ。表情はやわらかくふにゃりと崩れているのに、大人っぽい煙草の匂いが漂っている。わたしの大好きな香り。こういうギャップを感じるところが好き。「知らないふりをしてくれてありがとう」回している腕にぎゅっと力を込めてみる。彼のお腹はびくともしない。「え?何の話だい?わかんねェなァ」と笑いながら言うと、はじめてお腹に少し力が入って、背中が揺れた。

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