夏の忘れ物
すり抜けていった風は、秋の匂いがした。
まだ空は高くないし、雲だってわた菓子のように大きな塊のまま浮いているけれど。汗ばむ肌にまとわりつくような湿っぽさは感じられなかった。
「そろそろアイスも食べ納めかしらね」
茹だるような暑さの中で食べるソーダ味のアイスはお気に入りで、夏が来ると毎年欠かさずやっていた習慣だった。でも、秋の気配をほんの少しでも感じられると、魅力的で爽やかなあの甘い味は急にしっくりこなくなってしまう。
「今年も焼けたな」
ローはわたしのシャツの半袖部分をめくって、日に焼けたところと焼けていないところを熱心に見つめている。日焼け止め塗ってたんだけどね、と言うと、納得したのかそれとも別のなにかがあったのか、うんうんとうなずいていた。これも毎年のようにやっていることで、わたしが夏を乗り切った証を見れるのが楽しいと言っていた。意味は全く理解できなかったけれど、ローが楽しいならそれでいいやと好きにさせておいた。それに、彼の大きな手で二の腕をぎゅっと握られるのは、ちょっとおもしろい感覚がして好きだった。
「ローは焼けたの?」、と同じように半袖シャツの袖をめくって見る。肌の色の差はあまりない。かわりにいかついタトゥーと目が合った。
「やだ、わたしだけ日焼けしててはずかしい」
「おれは好きだ」
そう言って彼は腕を絡めてきた。くっついたところから体温が伝わってくる。暑いよ、と言って振りほどこうとしても、今度は肩を抱いてくるからどうしようもない。もう、と言いながら顔を上げると、いつもより近い距離にある金色の瞳と視線がぶつかった。吸い込まれるようにじっと見つめてしまう。そのまましばらく動かずにいると、ローは目を細めて微笑んだ。
「跡があると、そそる」
にやりと笑いながら言うローに、かっと頬が熱くなる。そのせいで、口の中にあるアイスがみるみるうちに溶けていった。