サンダル
足が指がざらざらする。サンダルを履いてくるんじゃなかった、と後悔しても遅かった。わたしの足は、歩くたびに砂を引っかけてしまっていて、かすかに指先が白んでいるほどだった。
しかもそれだけではない。甲にアキレス腱の近く、かかとに裏側。いろんなところに砂がくっついて、一粒一粒が小さいくせに主張して、ちくちく刺してくる。
砂浜の砂は、かなりあたたかかった。昼間の強烈な日差しに焼かれていたせいで、日が沈みかけている今でも、素足で踏む勇気が出ないほど。
やっぱり来るんじゃなかった、と頭の片隅に後悔が過ぎる。海は嫌いじゃないけど、夏の暑さは苦手だし、きちんと靴を履いていないと足が汚れる。
オレンジ色に染まった水面や寄せる波を見て、ふと、ため息をつく。西日が頬を当たる感覚は、ちょっと乱暴。わたしの手を引いて、隣を歩く彼が──サンジくんが、「どうしたの?」とやさしい声をかけてきた。
ううん、なんでもないよ、と首を横に振る。だけど、彼は納得していないみたいだった。繋いだ手に少し力がこもって、こちらを見つめてくる瞳には心配そうな色が浮かんでいた。そんな顔をさせたいわけじゃなくて、だからといって上手な言い訳なんて思いつかなくて、ただ曖昧に微笑んだ。
「疲れちゃった? 」
気遣わしげな問いかけに、小さく首を振る。
「サンダル履いてこなきゃよかったと思って」
そう言うと、彼は困ったように眉尻を下げて笑った。
「どうして?すごくかわいいのに」
「砂浜の上だと、ざらざらするんだもん」
彼の手から自分の手を離す。そのまま腕を上げて、親指の付け根あたりについた砂を払ってみせた。それでもまだ残っている感触があって、気持ち悪い。
「サンジくん」
「なに?」
「抱っこして」
両手を広げながら甘えた声で言ってみた。ちょっと恥ずかしく思ったけれど、それでもいいやと開き直って、このまま歩きたくないから、とつけ加える。
彼は一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、嬉しそうに目を細めて笑ってくれた。それから両腕を伸ばしてわたしを抱き上げてくれる。お姫様だっこの形で持ち上げられて、胸元に顔を寄せた。シャツ越しに伝わる体温と、耳のすぐそばにある心臓の音。いつもより強く感じる匂いに安心してしまう自分がいた。
「あんまりかわいいこと言わないでくれよ」
もう耳に馴染んでしまった、彼のふにゃふにゃした声。その声を聞くだけで心があったかくなって、自然と笑顔になってしまう。
「かわいいわたしは嫌い?」
首に腕を回して、しがみつくようにぎゅっと抱きつくと、彼は喉の奥で笑いながら歩き出した。ゆっくりした歩調に合わせて揺れる身体。背中を支える手のひらは、大きくて、あたたかくて、力強い。
「大好きだよ」
キスをするほどの近さで耳元にささやかれた声は甘く。西日に照らされていた頬を、さらに火照らせるには十分だった。