ほんのすこしのわがまま



君だけが、一番好きだよ。そう言ってとびきり甘い笑顔を見せる彼は、大人の男というより少年のようだった。ありがとう、とわたしが言えば、本当に飛びはねてよろこぶから、どこかかわいらしく思っていた。
けれどいまは、「君だけが、一番好きだよ」と、ぐるぐるした眉をへにゃんと下げて、元気のない様子で伝えてくる。どうしたの?と訊けば、えっと、と口を開きかけて動かすのをやめてしまう。「大丈夫。言ってみて」彼の手はポケットに入れっぱなし。だからかわりにシャツの袖をまくった腕に手を添えて言う。「なにかあった?」「うん……ううん、いや……」「サンジくん」「……あの、ナマエちゃん……」言いよどむ彼は、少しだけ泣きそうな顔をしていた。「おれ、ナマエちゃんから好きって、言われてェ」「えっ」「ありがとうだけじゃ、足りなくなっちまった」「うん」「ナマエちゃんのことが、好きなんだ」うつむきがちに、でもしっかり目を見て伝えられて、それはきっと本心なんだと感じられた。一途な気持ちが、身体の中に染み込んでくる。その感覚はくすぐったくて、思わず笑ってしまったけれど、決しておかしいわけではなくて。胸の中にあふれた愛おしさが、喉をついて出たものだった。「わたしも好きよ」そう言うと、彼の顔は、まるで花が咲くようにぱっと明るくなった。感情が豊かな彼。もっと、もっと、愛おしいと思えて、高い位置にある頬をそっと撫でた。
「一番、大好きよ」

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