飲んでも飲まれるな
成人してすぐに飲んだ酒の味は、正直覚えていない。
味より大人になったという高揚感の方が大きくて、大きすぎて、すぐに酔いが回って眠ってしまったから。
でも、決して、酒が弱いということはないと思っている。飯を食ってるときも途中で眠くなるし、酒を呑んだときも同じなだけだ。
絶対に、絶対に、弱くない。
何故、こんなにも自分に言い聞かせるようなことをしているのか。
それは、覚醒しかけた頭に温かさと柔らかさを感じているから。ぼんやりとながめる視線の先に、きれいな顎のラインが見えているから。
「あ、起きた?」
静かなやさしい声が上から降ってくる。おれのとは違う色の目は淡く揺れていて、形のいい唇がゆるく弧を描いて、おれの好きな笑顔を浮かべて。
「な、んで」
何でこんなに近くにいるんだ、こいつは。付き合ってもいないのに。もう無邪気な子供でもないのに。おれは男で、こいつは女なのに。
「エースってお酒飲んでもすぐに寝ちゃうのね」
なんで、どうして、と聞かなきゃいけないことは山ほどあると思う。でも、頭が上手く回らない。口が動かない。それが全身に回った酒のせいなのか、膝におれの頭を乗せながら微笑んでいるこいつのせいなのか、わからなかった。
「すごくご機嫌だったよ」
「え、」
「もう大人なんだって、わざわざわたしのところに来て言っちゃって」
弾んだ声に合わせて、白くて細い五本の指が、するするとおれの髪を撫でつける。恥ずかしさといたたまれなさが混ぜ合わさって、視線をあちこちに移してみる。そんなことをしたってなにも変わらないのに。わかっているけど、こいつの顔を見続けることだけは出来なかった。慌てて飛び起きて、顔をそらす。
「わ、忘れてくれ、」
「かわいかった」
「忘れろって!」
「いいじゃない、楽しい思い出よ」
けらけらと笑うこいつが少し恨めしくなった。手で顔を覆うと、信じられないほど頬が火照っていた。
あぁ、ちくしょう。情けねェ。
「……あのさ」
そんな情けないおれは、どうしてだか口走っていた。聞いておきたいことがあった。
「ん?」
「おまえって誰にでもこんなことすんのか?」
「こんなことって?」
「膝枕ってか……そういうの……」
「あはは、まさか」
それから続く言葉を聞いて、おれは人の形を保てているのかわからなくなるくらい動揺した。
なんでそんなことを、聞いたのか。
きっと、全部、酒のせいだ。
「膝を貸したのは、エースがはじめて」