「出水橘に懐いてんなー」

 ふと、太刀川のそんな台詞に顔を上げた。うちの橘と出水、そして当真と米屋がぞろぞろと模擬戦ブースに入っていくのを見て、確かにと頷く。確かに以前は全く話しているのを見かけなかったのに、最近はよく見かける。先輩に絡みに行く後輩の図とは微笑ましい限りである。

「橘さんって凩隊の狙撃手の子よね」
「え? ああうん」
「それならあの子に許可を取れば凩くんを引き抜いても問題はないわけね?」
「え、あ、あはは」

 この間から何故だか加古さんが異様に俺を勧誘してくる。どうやら東隊を解散するにあたり自分の隊を作りたいらしく、そのメンバーを全てイニシャル「K」で揃えるべくイニシャル「K」の実力者を勧誘して回っているらしい。そしてそれにまず目をつけられたのが、苗字が「こがらし」の俺だったわけだ。まったく加古さんも物好きだと思う。

「いくら誘っても無駄だ。迷いなくスパっと断られるだけだぞ、加古」
「…あら。イニシャル「N」には用はないのだけど」
「隊員から許可をもらうのは難しくないかもしれないが――」

 以前俺を誘ったことのある二宮が忠告するが加古さんは好戦的に受ける。どうして喧嘩腰なの俺を挟んで喧嘩しないで。東隊の誰か。助けて。三輪……はまだ荷が重いか、東さん。東さん助けて。
 …というか橘から許可を取るのは難しくないと考えられていることに笑えてくる。いや本当にそうだろう。ドライモンスターと呼ばれるくらい人の気持ちがわからなくて、ついつい利益で物事を考えてしまうあいつなら許可くらい出してしまうだろう。薄情だとは思うけども、まあ仕方がない。そういうやつだ。

「お、橘が米屋の脳天ぶち抜いた」

 隣で太刀川の声がして、モニターを見た。すると丁度米屋の頭が吹き飛んだところで、思わず笑ってしまう。相変わらず容赦ない射撃だ。
 ブースに強制送還されたらしい米屋の「橘さんこえー!」と叫んでいる声にまた笑う。いやうん、わかる。

「いい腕だ」
「そうね」

 後ろで、二宮と加古さんのそんな呟きが聞こえる。なんだか誇らしくなった。凄いだろ、俺の隊員は。


 ▽


「凩くんを私の作る隊にくれないかしら」

 当真に撃たれて緊急脱出したのでブースを出て凩さんの元へ行こうとすると、先の美人さんにそう声をかけられた。「あ、ごめんなさい。私は加古望。よろしくね」呆ける私にそう挨拶をしてきた加古さん?に慌てて頭を下げる。ほう、加古さんか。ええと、この人も凩さんがほしいと?

「はあ、そうですか。二宮さんも加古さんも物好きですね」
「ふふ、そうかしら。でも二宮くんと一緒にはしないで貰いたいわ」
「ああ、それは失礼しました」

 いいのよ、と素敵笑顔の加古さん。ううむ、こんな美人さんに勧誘されるとは凩さんも隅に置けないな。まああれでもイケメンだからな。うん。

「…でも凩さんは行かないんじゃないですか」
「、……なぜかしら?」
「ああいえ、何故かあの人二宮さんの勧誘も断ってまして。なんか、利益とかで物事を考えないみたいで」
「………そう」

 加古さんは少し驚いたような顔をして、しかしすぐにふ、と零れたような苦笑を漏らした。

「ふふ、そう。分かったわ、ごめんなさいね」
「? いえ」
「あなたももっと素直になればいいのに」
「……?? 私は元より素直なんですが」

 そうは言ってみても、加古さんは笑うだけ。その言葉の意味も苦笑の意味も分からないまま私は首を傾げた。

素直とはなんですか

SANDGLASS