「あっ! 穂村サン! ちわっす!」
「んあ? ………あー出水か」

 今日は作戦室にあるトレーニングルームのメンテナンスをするということで作戦室に入れず行くあてもなくブラブラとしていれば、最近懐かれた後輩に声をかけられた。出水公平、確か一個下だったので高一か。ボーダーには私よりも前にいたようだが話すようになったのは先日だ。だってポジションは違うし年も違うし出水はこう見えてもA級隊員だし、私との関連性なんて探しても見つからない。じゃあなぜこうして話すようになったのかといえば、出水のいる隊の隊長である太刀川慶さんという人がうちの隊長の凩さんと仲が良く(割と交友関係が広い人だ)太刀川さんがうちの隊と模擬戦をしたいと言い出したのがそもそもの始まりだ。既にA級入りしている太刀川隊と未だB級中位止まりの私達凩隊。結果は見えていたも同然でその想像通りになったのだが、こちらだってただただやられているばかりではなかった。その試合で私はこの目の前の太刀川隊の射手、出水公平の胸をぶち抜いたのだ。何故いつものように頭ではなかったのかといえば、出水が私の脳天への射撃を警戒して頭にガードを集中させていたので、ありがたく隙のある心臓辺りを狙わせてもらったためだ。しかし頭さえガードしとけばいいだなんて大間違いだと笑っていたら、後ろから太刀川さんにぶった切られた。あれは悔しい。
 そうしてその日から、何故だが出水が異様に絡んでくるようになったのだ。別に構わないのだけど、あの模擬戦で心臓ぶち抜かれといて絡んでこれる神経を少し疑ってしまう。いや別に一向に構わないのだけど。

「穂村さん今日は作戦室に行かないんすか?」
「んー、トレーニングルームがメンテ中で入れないんだよね」
「ふーん………あ、じゃあ今日って暇っすか、これから」
「んー? まあ暇っちゃ暇。今日はうちの隊ランク戦入ってないし」
「ならこれからちょっと模擬戦付き合ってくれません? 丁度狙撃手探してたんですよ」
「は? 模擬戦で狙撃手?」

 あまり聞かないそれに眉を顰めて問い返せば出水はニッと笑って親指で後ろを指差した。

「まー行きながら説明するんでついてきてくださいよ」


 ▽


「………ほー、狙撃手入りの模擬戦」
「そーそー。なんか変わったことしようぜって言われたから二人で考えたんすよ、槍バカと」
「槍バカ? …ああ米屋か。いやまあ、私が出水側の狙撃手やるのはいいんだけど、向こうのは? あんまり強いの来られたら死ぬんだけど私」
「まー実力者連れてくるでしょーね」
「……かえる」
「え、ちょここまで来て帰るとかなしでしょ!」

 出水から話を聞いて、若干面倒なのと面倒なのでうんざりした私は帰ろうとするが出水に阻まれてしまう。くそうと呻きながら模擬戦会場に着くと、既に米屋は来ていて、相変わらずの笑みを浮かべている。因みに米屋、もとい米屋陽介は最近入った奴で出水と同い年の(今のところはまだ)B級隊員だ。正直親しみやすいやつではあるが妙に死んでいるというか真っ黒な目が恐ろしくて嫌だ。いや別に嫌いじゃないけど。
 米屋の姿を見つけ、あいつは一体誰を連れてきたんだと隣に目をやって、私は思い切り顔を歪めた。

「げぇ、当真じゃん」
「げぇってひでぇな、お前は」

 米屋の連れてきた狙撃手は当真だった。まあ確かに勝負をする分には心強い助っ人かもしれない。いやしかし、でも。当真はマジ変態かってくらい精密な狙撃するし(人の事は言えない)というか天才ってやつだし出来れば相手にしたくない相手だ。やめれ。

「かえる」
「いやいや待ってくださいよ! 穂村さんなら当真さんいても余裕でしょ!?」
「やめろーそんな期待するなー私はまだB級中位隊なんだよA級と戦わせるんじゃない」

 ぐぐぐ、と出水は私の腕を引っ張り、私は腕を引っ張られないよう押し留めて、その場で小さな攻防戦を繰り広げる。暫くジッと睨み合っていれば、ふと、入口の方が騒がしくなった。

「あれ? 橘? 何やってんの?」
「、凩さん。…に二宮さんに太刀川さん、と」

 一人知らない女の人がいた。その人は言い淀んだ私を見てニコリと綺麗な笑みを浮かべる。ふむ、綺麗な人だ。
 ぞろぞろと入ってきた目立つ四人組たちは真っ直ぐこちらに歩いてくる。恐らく出水と私がいるからだろうが、目立ってるぞあんたら。やめれ。巻き込まないでくれ。帰りたい。

「凩さんこそ何しに来たんですか」
「いやあ、太刀川と二宮と加古さんの啀み合いに巻き込まれちゃって」
「ふーん…」
「おいおい巻き込まれたとはなんだよ誘ってやったんだろー?」

 グイ、と割りこんできた太刀川さんに少々迷惑そうな目を送るが、太刀川さんはいつものヘラっとした笑顔で気にした様子はない。この間ぶった切られたのでこの人は好きじゃない。

「っていうか俺B級だからさ、参加は控えとくよ」
「そんなこと言わずにやりましょうよ、凩くん」
「え、あ、うーん………あはは」

 先の美人さんにも誘われて苦笑いを零す凩さんはこちらにちらちらと助けを求めてくる。いや知らんぞ私は。勝手にやってろ。

「おい橘早くやろーぜ」
「げ、当真。………しゃーない一勝負だけな」
「よっしゃ! やった! じゃブース行きましょ穂村さん!」
「分かった分かったから引っ張るな出水!」

 あーもうだるい。帰りたい。

帰りたい帰れない

SANDGLASS