加古さんとの話を終え、凩さんがいた場所に戻ると、何故かそこに凩さんはいなくて、代わりに二宮さんが脚を組んで椅子に座っていた。首を傾げつつ、二宮さんに声をかけるのは怖いので自力で凩さんを探そうとしていれば、不意に後ろから「橘か」と声を掛けられた。内心でげっと顔を歪めながら振り返り、声を掛けてきた二宮さんにどうもと会釈を返した。
「凩さん達は一緒じゃないんですか?」
「ああ。今太刀川と模擬戦中だ」
「はあ………二宮さんはやられないんですか」
「俺と加古はじゃんけんに負けた。これの後俺が勝ったほうと、それに勝ったほうが加古とする」
「ほー」
そんなトーナメント方式みたいなやり方しなくても四人で乱戦するかそれが嫌なら二人ずつ同時進行で試合して勝った人、負けた人同士で試合すればいいんじゃないのか。だめなのか。アッハイそうすかスミマセン。
「…………加古に言われたか?」
「……え?」
「凩を引き抜きたいと」
「……ああはい。さっき」
最初、何を言われたのか分からなかったが、付け加えられた言葉に納得する。それに頷いて二宮さんの言葉を待った。
「何て答えた」
「無理じゃないですかって」
「、」
「あの人は利益で物事を考えないようなのでどこにも行かないと思います、って答えました」
「………そうか」
す、と目を細めて、二宮さんは黙りこんだ。そのまま私からふ、と目をそらして、何も話さなくなってしまった二宮さん。ええ…、と困惑しながらその場に立ち尽くしていれば、後ろから何かに抱きつかれた。バランスを崩して前に倒れる。
「ぐっ、っ」
「穂村さん!! 当真さんに撃たれた!! なんなんすかあの距離で頭当ててくるって意味わかんねー! 変態かよ!」
「……………………おい出水」
抱きついたままぎゃあぎゃあと先ほどの模擬戦について喚き散らす出水にイラッと青筋を浮かべながら、頭の中で今の状況について整理する。出水が抱きついてきた。前に倒れた。目の前には二宮さんがいた。何かに支えられている感覚。そして少し上の方から聞こえた低い声。つまり。
私は今出水と二宮さんにサンドされている。
「これなんて乙ゲー」
「は? 何を言ってる」
「ぅわっ!? 二宮さん何やってんすか!」
「お前に巻き込まれたんだ馬鹿」
慌てて私から退いた出水に倣い、私も二宮さんから離れる。スミマセンといつものテンションで謝罪すれば、横にいた出水が「このアクシデントで反応薄すぎでしょ…」と文句を言われた。え、何が。
「つか出水急に抱きついてくるのやめろよ」
「だって当真さんが!」
「女子に抱きついていい正当な理由にならんし二宮さんにまで迷惑かけただろ馬鹿」
私と出水の体重合わせてどのくらいになるのかは知らないが結構な重さだったろうに二宮さんは涼しい顔だが、内心ではきっと怒っているに違いない。というか反応薄いように見えたようだけどほんと怖かったからね間近に二宮さん居るって受け止められてるって! いやほんとどんなホラーだよ!
出水を叱っていれば、模擬戦を終えたらしい凩さんが二宮さんを呼びに戻ってきた。
「おーい二宮ー、俺負けたから太刀川とやって来いよ……って何やってんの?」
「あ、凩さん」
「なんかあった?」
「あーえーと、出水と二宮さんにサンドされました」
「…………………ん?」
簡単に先程あったことを説明すれば、凩さんは笑顔のまま固まった。二宮さんの方をパッと見る。二宮さんはイヤな予感がすると言わんばかりの表情で凩さんの言葉を待っていた。
「二宮ってロリコンだったのか…!?」
「色々違う!!」
まず俺はまだ18だとかロリコンじゃないとかそもそもの説明を端折り過ぎだとかその他諸々今まで見たことのないほど早口で喋る二宮さんを見守っていれば、二宮さんが今度は私の方を向いて、ぎ、と睨んできた。おおう、イケメンの睨みって怖い。
「もう少し正しく現状を伝える力を身に付けろ」
そう言って、もう模擬戦に参加はしないはずの凩さんを連れて、二宮さんはブースへと向かって行った。ううん、凩さんご愁傷さまです。
「…じゃー俺らもまた模擬戦やりましょーよ」
「は? 一試合だけって言ったじゃん」
「まーまー。槍バカと当真さんスタンバってんで行きましょー」
「だからやだって……おいこら引っ張るな!」
まだまだ私も帰れそうにない。
これなんて乙ゲー