今日は二宮隊、東隊、影浦隊、三雲隊の四つの隊の四つ巴ランク戦だ。なんだかすごい因縁めいたものを感じるメンバーだ。観客席に凩さんと並んで座って観戦しながらそう思う。今日の解説は加古さんと風間さんで、実況は嵐山隊のオペレーター、綾辻遥ちゃんだった。あの子とはあんまり話したことないけど滅茶苦茶可愛いな。やっぱり広報もやってる部隊はオペレーターも超絶美少女のようだ。それを凩さんに言ってみたら「うちの和歌だって可愛いだろ…!」と謎の反論を受けた。いや、そりゃ名風ちゃんは勿論他の隊のオペレーターもまた違う可愛さはありますけど。いやそうじゃなくてですね。あの子可愛いねー的な会話をしようと思ったわけでして。…うーんまあいいや。面倒くさくなってきた。
凩さんとそんな会話をしているとランク戦が始まった。さて今回の三雲隊はどんな作戦で出てくるのだろう、とモニターを見た。
「…あー」
しばらく見て、思わずうめき声を上げた。三雲くんが初っ端から犬飼と出会して一騎打ちになってしまい、そこに東隊の攻撃手の二人…確か奥寺と小荒井、そして辻くんが乱入、色々あった末に東さんの壁抜き狙撃で三雲くんがやられた。いや、はい。さすが東さん。でもいつもは狙いにくいってやらないのに、しかもわざわざ三雲くん狙うなんてどうしたんだろう。三雲くんをよっぽど警戒していたのか、それとも単に撃ちやすかっただけか。前者かな。三雲くんは放っとくと何しでかすか分からないからな。
問題はその後だ。千佳ちゃんが人を撃てないはずなのに、犬飼たちの集まっている場所に大砲を撃ってしまった。三雲くんが落とされて焦ったのだろうか。しかし千佳ちゃんの放った弾はそこにいた四人の中で誰にも当たらず、ただ自分の場所を教えるためだけの狙撃になってしまった。すかさず犬飼が千佳ちゃんを落としにかかった。しかし追いかけている最中でユズルの狙撃を食らい、更に影浦に串刺しにされて落とされていた。ごめん犬飼、ユズルナイスって思っちゃったよ。ランク戦に関しては私三雲隊贔屓だからごめんな。うん。そのおかげで千佳ちゃんは無事緊急脱出した。どうやら千佳ちゃんは危ない状況になったらすぐに緊急脱出するように教えているようだ。うーん、ちょっと話しただけだけどあの子結構無茶しそうだもんなあ。
それから一人になった空閑くんはなんとか一点をもぎ取ったものの、二宮さんに蜂の巣にされて落とされた。そこからは膠着状態が続き、結局制限時間までなんの動きもないまま終わりを告げた。結果は三対二対二対一。二宮隊一位、三雲隊最下位という結果になってしまった。
「あーあ、負けちゃいましたね」
「いや、俺はどっちかというと二宮隊のほう応援してたし…」
「えー凩さんの裏切者」
「なんでだよ! …だって俺がA級にいて二宮がB級なんて、どう考えたっておかしいじゃんか」
「知りませんよそんなの。私は千佳ちゃんを応援してるんで」
あーはいはいと凩さんは投げやりな返事を返してきた。私はそれに溜息を吐き出して、立ち上がった。
「あ、どこ行くんだよ」
「ちょっとジュース買いに行ってきます」
「俺のも買ってきてよ」
「嫌ですよ」
凩さんの好きなジュースって何だっただろうか。
▽
「えーと…凩さんの好きなジュース……なんだっけ。うーん……もうおしるこでも買っていこうかな」
「それは最早嫌がらせじゃないのか」
「え? …うっわ」
声を掛けてきた人物を見て、思わず嫌そうな声を上げてしまった。慌てて口を抑える。そんな私をその人……二宮さんは軽く一瞥すると、お金を入れてある自販機のボタンをピッと押した。
「凩はりんごが好きだ」
「えっ、めっちゃ爽やか……あれ? でも今思い出したんですけどずっと無糖のコーヒー飲んでたような?」
「隊員の前で格好でもつけていたんじゃないか。あいつは苦いの苦手だからな」
「えー今更格好付けって…」
二宮さんからりんごジュースを受け取りながら、呆れた顔を作る。凩さんが今更格好付けたところでって感じだ。
自分の分のジュースを買って、二宮さんのぶんも買おうとまたお金を入れる。ええと確か二宮さんの好きなジュースは……と、凩さんの言っていたことを思い出しながらボタンを押した。ガタン、とジンジャーエールが落ちてくる。
「はいどうぞ」
「…よく俺の好きなものを知っていたな」
「凩さんから聞いてたんで」
うろ覚えだったけど当たって良かった。そして当然のように後輩からジュースを受け取るんだな二宮さん。いいけどさ。
そこまで考えて、ふと思う。今の状況、なんか鳩原が失踪した直後のあの時と似ている。
「前にもこんなことがあったな」
「…同じこと考えてました」
「そうか。…あれから一年近く経つ」
「そうですね」
「…お前はまだ、鳩原を探しに行きたいと思っているのか?」
二宮さんの問いに、少し固まる。そうして、軽くうなずいた。二宮さんは目を細めて、そうか、と呟くように言った。
「犬飼から聞いた。あのチビ大砲を可愛がっているらしいな」
「…、千佳ちゃんですか? そうですね。あの子可愛いですし、可愛がりたくもなりますよ」
「本当にそれだけか?」
「…え?」
「お前は、あのチビ大砲を鳩原と重ねているんじゃないのか」
「…!」
やっぱり、すぐには否定の言葉が出てこなかった。二宮さんと話すといつもこうだ。いつも二宮さんに核心を突かれて、しかもめっちゃ痛いところで、なのに否定したくても出来ない。辛い。息が苦しくなる。
「は、はは」
「何がおかしい」
「いや、二宮さん、私と普通に話してくれるけど、案外私のこと嫌いなのかなって」
「嫌いではないが」
「そうなんですか? …はは、また外れた」
泣きたくなった。元々二宮さんのことは苦手だったけど、鳩原がいなくなってから、あの凩さんの家での一件から、もっと苦手になった。二宮さんの問いはいつも直球で、鋭利な刃物みたいで、こわい。答えられない自分がもどかしく感じて、苦しくて、痛くて、立っているのも辛くなる。こんなの、私のこときらいじゃなかったらなんなんだよ。
「…重ねてなんかないです」
「……」
「違う、ってことにしといてください」
「……」
二宮さんは睨むように私を見ている。この視線も、たまらなく嫌いだった。ひどく、咎められているような感覚に陥る。鳩原のことも、こうして私の抱いている冷たい感情も。
「ただ千佳ちゃんを放っておけないだけなんです。鳩原はかんけいない、です。多分」
「自信を持って言えないのか」
「自信をなくさせてるのは誰ですか」
「俺なのか」
「あんたですよ」
少し、息が楽になった。何だか無性に、犬飼に会いたくなった。
重ねて見てなんかいない