「あ、お帰り穂村〜」
「…私あんたの幼馴染嫌いです」
「は!?」
二宮さんとのあの一件後、私はジュースを持って凩さんの元へ戻った。朗らかな笑顔で出迎えてきた凩さんに思いの丈をぶつけると、凩さんは頭の上に大量のはてなを飛ばしていた。まあ事情説明はしないんだけど。
「いやもう二宮さんほんとに何なんですか。ありえない。私の心がズタボロなんですけど」
「ごめん穂村何言ってるかさっぱり分からない」
「ポンコツ凩さん」
「なんで!?」
分かれよードライモンスターじゃないなら分かるんだろもう知らないよ。なんにも知りたくない。なんか今すごい犬飼に会いたい。なんでだろう。まあいいや。そんなのどうでもいい。さっき二宮さんあそこにいたってことは近くにいたのかも。探せば良かった。
「…鳩原と千佳ちゃんは全然違いますよね…」
「…はあ…? 何なのお前もう…」
ぽつりと呟いた私の台詞に少し呆れ顔をしながら凩さんが首を傾げた。ただ呆れてどこか行ってしまわない辺り、やはりいい人というかなんというか。
「…あーなんかすみません。ちょっと疲れたんで私もう帰りますね」
「え、あ、ああ……大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
困惑している様子の凩さんにヒラヒラと手を振って、私はその場を後にした。
▽
「…あ、千佳ちゃん」
「…え? あ、橘さん」
今日はもう本当に帰ろう、と本部の出口を目指していると、見慣れた後ろ姿を見つけて思わず声をかけた。振り返って私の名を呼んだ千佳ちゃんに笑って、ヒラヒラと手を振った。千佳ちゃんのすぐそばに三雲くんと空閑くんもいる。
「三雲くんもやっほう」
「あ…ど、どうも」
「? オサム、チカ。誰だ? この人」
空閑くんが私を見て首を傾げた。するとすかさず三雲くんが私のことを紹介してくれる。
「空閑、この人は橘穂村さんっていって、A級凩隊の狙撃手だ」
「どうも〜空閑くん初めまして」
「空閑遊真です。はじめまして、たちばな先輩。オサムとチカがお世話になってます」
「おい空閑…」
「あはは。千佳ちゃんはともかく三雲くんはお世話してないかな〜」
まあ千佳ちゃんもお世話してるかって言われたら別にそういうわけじゃないんだけど。ただ普通に、鳩原やユズルのときみたいに構い倒しているだけだ。…これももしかして鳩原と千佳ちゃんを重ねているってことになっちゃうんだろうか。ああもう分かんないから考えるのやめよう。
それよりも、ようやく空閑くんに会えた。
「ねえねえ空閑くん。ちょっと二つくらい聞きたいんだけどさ」
「? なに? あ、場所変える?」
「いや、短く済むよ。…えーと、まず一つ目」
ピン、と人差し指を立てた。
「空閑くんが玉狛にいるっていう、人型近界民、だよね?」
「…、うん、そうだよ。A級はみんな知ってるの?」
「いやー、どうかな。私はちょっと口の軽いやつに聞いただけだから。迅さんには確認とったけど」
「ふーん」
あっさりと頷いた空閑くんに笑って、次は二つ目、と今度は指を二本、立てた。
「鳩原未来≠チて、知ってる?」
「! 橘さん…」
「あ、違う違う、千佳ちゃん。確認だけ」
こちらを…多分空閑くんを心配そうに見る千佳ちゃんを安心させるように笑って、空閑くんにもう一度目を向ける。
「名前だけなら、にのみやさんに聞いたよ。あとは知らない」
「…そっか。まあ、だよね。うん。そっか」
やはり収穫はない。分かっていたけど、なんか落胆が大きいな。はあ、と溜息を吐くと、千佳ちゃんが「大丈夫ですか?」と心配してくれた。ああ可愛い。
「千佳ちゃん抱きしめていい?」
「えっ!?」
「言いながらもう抱きついてるな」
「ちょっ、橘先輩!」
「癒やしがほしい」
「何言ってるんですか!」
しばらく千佳ちゃんを堪能して、千佳ちゃんから離れた。いや〜ちょっと二宮さんのせいで憔悴してたからな〜うん。ありがとう、と言うと千佳ちゃんは戸惑っていた。うんごめんね困らせて。
「さて、聞きたいことは聞いたし私は帰ろうかな。ありがとね空閑くん」
「イエイエ。お役に立てませんで」
「いや、空閑くんが知らない、っていうのが貴重な情報だよ。三雲くんはお母さんによろしく」
「えっ? あ、ああはい…?」
「千佳ちゃんはまた明日訓練で会おうね〜」
「はい」
それぞれに挨拶をして、今度こそ外に出る。はあ、空閑くんは鳩原のことを知らないのか。また大きな溜息を吐き出した。
「(空閑くんは鳩原を知らない……まあそうだよな多分近界ってめっちゃ広いもんな)」
そんなの、そりゃ知らなくて当たり前だ。知ってる近界民がこっち側に来てる可能性なんてそれこそ天文学的確率だろうし、そう考えると鳩原を探すっていう目標が果てしなく遠いものに思えてきた。ああもう、ちょっと頭痛くなってきたよ。
「ああもう無理。考えるのやめよう」
答えのない問題を、延々と解かされている気分だった。
やっと会えた人型近界民