今日の狙撃手合同訓練の内容は、「補足&隠蔽訓練」だ。参加者は仮想マップのランダムな位置に転送され、レーダー無しの情報で九十分間隠れながら他の隊員を見つけて撃つ。いつもの撃つ時の音と光がないので、なんだか少しやり難くてこの訓練は苦手だ。

「お、千佳ちゃん見っけ」

 頭を狙って一発撃つ。撃ったらすぐにその場に隠れる。隠れなければ当て返されてしまうからだ。訓練が終わっても暫く撃たれたときの印は消えないのであまり当てられたくない。この間なんかは当真がおでこに当ててきて、その時の間抜けな姿ったらない。荒船には笑われるし当真に当てられた悔しさも相まって最悪だった。ありえない。
 隠れながら移動して、ターゲットを補足して撃つ。その繰り返しで今日こそは被弾0を目指している。大体いつも奈良坂くんとか当真とか、たまにユズルに見つけられて被弾が2とか3付いてしまう。しかも当真は毎回おでこに当ててくるし大体六百メートルとか七百メートル先から撃ってくるから撃ち返すこともできない。悔しすぎる。なんであんなところから撃って脳天に当たんの? ありえないでしょ?

「…!」

 ピ、と肩に印が付く。左か、と呟いてそちらを撃った。命中だ。くっそこれで被弾1じゃないか。誰だよ今の。さっきの背丈だったらユズルかな。あ〜畜生ユズルめ。何個か印つけてやりたいけど一人につき一回しか狙えないんだよな…はあ。

「あーくっそこれ以上被弾増やさないぞ」


 ▽


「的中30、被弾3……はあ」

 思わずがっくりと項垂れる。あの後普通に当真と奈良坂くんに当てられてやはり被弾の数は3になってしまった。当真の野郎またおでこに当てやがって。いや太一みたいに両の頬に被弾するよりはマシだけど。奈良坂くんにも当て返せなかった。畜生奈良坂くんは一位かよ。はあ、ついてない。

「って出穂ちゃんお揃いじゃんおでこ」
「あっ、ホントっすね。それ107…リーゼント先輩じゃないすか!」
「そうそう。おでこは間抜けだからやめろって言ってんのに面白がってあいつ当ててくんだよね〜。出穂ちゃんのは……316……は、えーと、ああ太一か。まあ顔は太一のが酷いことになってるからおあいこだね」

 そうっすね、と頷く出穂ちゃんに笑って、隣に立っていた千佳ちゃんに手を振って「やっほう千佳ちゃん」と挨拶をする。千佳ちゃんも笑って返してくれた。昨日抱きついちゃってごめんねーとついでに昨日のことも謝ると、「そんな、えっと…私で良かったらいつでも」と笑ってくれた。何この子超可愛い、ってことで早速抱きつかせてもらった。やだこの子妹に欲しい。千佳ちゃんのお兄さん早く帰ってこないと私が貰っちゃうぞ。鳩原も一緒に連れて帰ってきて欲しいな。うん。
 と、千佳ちゃんに抱きついていると、出穂ちゃんがよく分かっていないなりに手を広げて「アタシもいつでもいいっすよ!」と言ってくれた。うわあ何この子たち可愛い。お言葉に甘えて出穂ちゃんにも抱き着いた。
 そうして癒やされているとユズルがこちらを見ているのに気づいた。

「……」
「わあユズルめっちゃすごい顔で見てくんじゃんやめて合法だよこれ」
「合法とか言ってるのが犯罪臭い。っていうかあんたが触るとドライモンスターが感染るから離れてよ」
「ユズルくんそろそろ私泣いちゃうよ」
「泣けるもんなら泣いてみろよ」

 ありゃ、ユズル私が泣けないのに気づいてんのかな。苦笑して、二人から離れた。いやあユズルの私嫌いも健在ですな。ほんとに泣きそう。

「嫉妬深い男は嫌われちゃうよーユズル」
「……」
「その顔やめてー」

 鳩原の弟子が冷たくて泣きそう。


 ▽


「橘さっきの訓練何位だったんだよ」

 千佳ちゃんたちが訓練室から出て行って少しして、これからどうしようかなと考えていたら荒船にそう声を掛けられた。荒船がこういうことを聞いてくるのは大体私と順位を競おうとしてくるからだ。荒船には負けたくないなあと考えながら、私は答えた。

「144点で、六位」
「……チッ」
「おっ私の勝ち? その舌打ちはそうだよね? よっしゃまた勝ったー!」
「だあ五月蝿えな! 俺は141点の七位だから僅差だろ!」
「でも勝ちは勝ちだし? よし私の勝ちだからなんか奢ってよ」
「今回は賭けてなかったからナシだろ」
「えー」

 でも荒船だって自分が勝ってたら私にたかってたに決まってるのに。まあでも今私は荒船に勝てて気分がいいのでこのくらいのことじゃ怒らない。それに千佳ちゃんと出穂ちゃんに癒やされてきたし。ユズルはえげつないくらい冷たかったけど。まあそれも今のでチャラだ。

「あーくっそ、今日こそは勝てたと思ったのによ」
「はっはっは、A級狙撃手様に勝とうなんて十年早いわ」
「威張んな」
「痛い」

 荒船とふざけながら、そういえばと今日の訓練を思い出す。千佳ちゃんの順位をチラッと見させてもらったが、100点超えで中々の好成績だった。つまり、人を撃ったということだ。どうやら千佳ちゃんは訓練なら人を撃てるらしい。

「(実践でも撃てるようになればいいのに)」

 そうしたらきっともっと隊としても強くなれて、遠征に行ける確率だって上がる。そうなれば、きっと鳩原みたいになんか…、

「……」
「うおっ!? どうした急に頭叩いて…?」
「なんでもない」
「…?」

 たった今至った思考に、思わず自分の頭を殴りつけた。そうして、二宮さんの言葉が頭に蘇った。私は千佳ちゃんを、鳩原に重ねてみている。もしかしたら本当にそうなのかもしれない。そうであって欲しくない。だって私は千佳ちゃんが本当に大好きだ。可愛くていい子で、応援したくなる。千佳ちゃんは鳩原じゃない。鳩原のことは鳩原で、千佳ちゃんのことは千佳ちゃんで大好きだ。だから。

「…二宮さんのせいだ」
「は?」
「何でもないってば」
「……」

 大きく、溜息を吐き出した。二宮さんの問いはいつも、私の心に大きな傷跡をつけていく。触れてほしくない部分を無遠慮にえぐりとっていくのだ。もう本当に、なんであの時二宮さんに会ったんだろう。今度から二宮さんと二人になったら逃げよう。そうしよう。

「…なんか奢るか?」
「え、なんで?」
「いや……、いいから食堂行くぞ」
「えー奢りならバウムクーヘンが…」
「それは犬飼と行けよ」

 なんかちょっと荒船が優しくなった。

何も考えずに過ごしていたい

SANDGLASS