「やっほう空閑くん」

 次の日、私は早速昨日言っていたわらび餅を持って空閑くんに会いに行った。空閑くんは少し驚いた顔をして、私の名前を呼んだ。

「たちばな先輩。どうしたの?」
「いやー昨日は悪かったなーと思ってね? 昨日言ってたわらび餅を買ってきたんだけど。いいとこのだよ」
「ほう。それはそれは、どうもありがとう」

 空閑くんは丁寧なお辞儀と言葉を述べて袋を受け取った。しかし受け取ったあと、なぜか私の方をジッと見上げてきた。また、空閑くんの白い瞳が黒く染まっている。

「たちばな先輩、つまんない嘘つくね」
「…、」
「悪いと思ってるっていうのは嘘だよね」

 一瞬、言葉に詰まって、目を見開いた。図星だったからだ。私は昨日のことを、少しも悪いとは思っていない。だって私は間違ったことなんて言っていない。ただ、空閑くんも間違ったことは言っていない。だからこうしてお菓子を買ってきた。

「うん、まあね。嘘吐いてごめん。それ、サイドエフェクトかなにか?」
「うん、そうだよ。嘘が分かるんだ」
「あ〜なるほど。すごいね、それ私も欲しいな」
「そんなにいいことばっかりでもないけどね」

 まあ、サイドエフェクトを持っていることで苦労するっていうのはよく聞く話だ。一番分かりやすい例でいくなら、影浦とか。そういえば村上も苦労したって話を聞いた。確か荒船から。

「嘘を吐かれるっていうのはあんまりいい気しないよね、ほんとごめん」
「いや、それはいいよ。悪意のある感じじゃなかったし」
「悪意は……そうだね、ないよ。ただ、私は昨日間違ったことを言ったとは思ってないからさ。やっぱり絶対なんてないよ」

 そう言って軽く笑うと、空閑くんは私を見上げて目を細めた。あはは、納得してないって顔だ。まあそりゃそうだろうな。多分、チームメイトはそうじゃなきゃいけない。それに私が千佳ちゃんを信じていようがそうじゃなかろうが、彼らには関係のないことだろうから。

「じゃ、このわらび餅玉狛の皆で食べて」
「…うん。ありがとうたちばな先輩」
「いえいえ。じゃーね空閑くん、次の模擬戦も頑張って。三雲隊贔屓に応援してるから」
「……」

 空閑くんは袋を持ったまま手をひらひらと振って応えてくれた。よし、じゃあ今度は駅前のケーキ屋でバウムクーヘンを買ってこよう。なんか空閑くんとは微妙な感じになっちゃったけどあの三人と仲良くなりたいのは変わらない。応援はしてる。あの会見を見た時からずっと。

「さてと、どこで名誉挽回するべきかな」

 余計なことを言ったつもりはないけど、なんだか少し後悔している。


 ▽


「あ、辻くんだ」
「……」
「うわあすごい逃げるじゃんちょっと待ってって」

 なんだよどいつもこいつも(大体ユズルと辻くん)人の顔見て途端に逃げやがって。私にだって傷つく心はあるんだって何回言えば分かってもらえるんだか。

「…どうもこんにちは橘先輩」
「ちょっとくらい嫌そうなの隠してくれてもよくないか?」
「すみません顔が勝手に歪むんです」
「うーん自然とそうなっちゃうくらい嫌いってことか〜」

 おい泣くぞいい加減。あまりに冷たいその対応に溜息を吐き出しながらも掴んだ辻くんの腕は放さないままその場にしゃがみこんだ。

「えっ、ちょっと脱力するんなら腕放してから一人でしてくださいよ」
「おい心配しろ。…じゃなくて、あ、そうだ辻くんこの前のランク戦かっこ良かったねー」
「見え透いたお世辞はいいので放してください」

 うーんこれは辻くんにも相当嫌われてるな。まあ辻くんに対しての場合色々と心当たりがあるからな。うん。一回泣かせたりしたしな。あの時はごめんね辻くん。あまりに嫌がるので大人しく手を放してやると、辻くんは逃げる様子も見せずにその場に立っている。え、どうしたの、と首を傾げると辻くんも何故か不思議そうに首を傾げた。は?

「なにがです?」
「いやいや、逃げないの? さっきまで散々逃げたがってたのに」
「腕を放して欲しかっただけです。最初逃げたのは…条件反射というか」
「そこはぐっと堪えろよ…」

 なに条件反射ってそれはそれで傷付くんですけど。あーもう最近は千佳ちゃんとか出穂ちゃんとか天使を相手にしてたから辻くんのこの塩対応辛すぎる。まあユズルも相手にしてたからその辺の耐性はあるけど。

「それで、なんですか?」
「…は? なにが?」
「なにか用があったんじゃないんですか」
「え、いやいや。見かけたから声かけただけだよ。そしたら逃げるからつい条件反射で捕まえに行っちゃって」
「……」

 辻くんは額を抑えて溜息を吐いていた。いやあ逃げなかったらこんなに絡まれなかったのにね恨むなら自分の反射神経を恨むんだよ私は悪くない。誰だって逃げられたら追いかけたくなるようん。

「…もういいです。俺行きますね」
「うんばいばい。あ、自由登校になって犬飼に会ってないんだけど犬飼元気?」
「はい? …ああ元気ですよ」
「そっか。そりゃ良かった」

 今度こそ手を振って別れた。さてと。訓練に行こうかな。千佳ちゃんと出穂ちゃんに癒やしをもらいに行こう。

癒やしって大事

SANDGLASS