前々から言っていた近界民の侵攻があった。私は狙撃班として駆り出され、ひたすら目の前の敵を撃った。嬉しいことに今回は人の形をしたトリオン兵だ。頭を狙って撃つのが好きな私はシールドをぶち壊す勢いでそこばかり狙った。だけどその後出てきた犬型のトリオン兵には参った。犬は嫌いじゃないしなんな動物いじめしてるみたいで嫌だ。結構犬好きなんだけどなあ、と呟きながら涙をのんで狙撃を続けていたら「犬好きには到底見えねえ躊躇のなさぶりだな」と当真に笑われた。いや、そりゃいくら犬型って言ってもトリオン兵だし。ほら木崎さんとかも容赦なく殴ってますがそれは。

「っていうかさあ、千佳ちゃんいないのくそ萎えるんですけど」
「しゃあねえだろ、玉狛は今日ランク戦だし」
「そーだけどさ、なんかこう、モチベーションがこう」

 もう一人の出穂ちゃんはまだC級だから戦闘には参加できないし、はあ、つらい。癒やしがほしい…
 そう呟きながら仕事を続けていると、下の部隊と合流することになったらしく飛び降りる。なんか、重力のせいだって分かってはいるんだけど地面についた瞬間地面がめり込むのどうにかしてほしい。体重のせいじゃないとは分かってはいるんだけど。なんか、心の問題分かって。
 めり込んだ地面をなんとも言えない心持ちで眺めて、ふと犬飼の姿を探す。そういえば自由登校になってから会えていない。すぐに見つかる。何故か加古さんの隊のとこの黒江双葉ちゃんとじゃれて遊んでいた。わあ楽しそう。

「いぬ…、?」

 少しだけ、本当に少しだけ、下手したら気づかなかった程度の違和感が、胸の辺りに差した。胸に手をやるが、何ともない。思わず首を傾げた。トリオン体の不調だろうか。

「あ、穂村じゃん! やっほー久しぶり!」

 そうしていると、犬飼のほうから声をかけてきた。顔を上げて、それに答える。なんともない。いつも通りだ。笑顔を作って二人に近づいた。

「やっほー何やってんの犬飼」
「黒江ちゃんと遊んでた」
「遊んでないです命令待機中です」

 見ると凩さんが二宮さんと加古さんに挟まれて頭を抱えていた。わあ、ここでも苦労してる。犬飼に「凩隊も揃ったね」と言われて頷く。二宮隊も揃ったらしい。まあだからといって隊で動くことにはならず、集まったメンバーで連携して敵を撃っていく。本部の中の方にも敵が入り込んだらしいがまあそのへんは中の人がどうにかしてくれているだろう。太刀川さんとか風間さんとか村上とか、攻撃手上位がごっそりいないし。凩さん向こうに行けなかったんですか、とからかうと「俺が行けるわけ無いだろ!」と怒られた。相変わらず自信のない人だ。行けたっておかしくないのに。
 まあそんな感じでサポートを続けていると、敵が引いていった。おっと? 終わった? どうやら中で太刀川さんたちが人型の近界民を倒したらしい。なるほど、大ボスを倒したから終わりってことか。大したことしてないけどまあ勝ったなら良かった。

「穂村!」
「…、犬飼」
「終わったね、お疲れー」

 んー、と軽く頷いて、これからの予定を思案する。さてどうするか、これから三雲くんたちのランク戦始まるんだよな。確か、柿崎隊と香取隊だったか。あんまり交流ないからよく知らないけど確か若村くんって子が犬飼に射撃を教えてもらいに来てたのは知っている。絡みに行ったらあまりにも真面目に対応されて逆に面白くなかったのを覚えている。ただいい子だとは思う。うん。なんだかこちらの主観で面白いか面白くないか決めてしまって申し訳ない若村くん。
 とまあそれはさておき、ランク戦だ。今日は疲れたからまた今度ログ見ればいいか、とそこまで考えたところで、ふと先日出水が言っていたことを思い出した。

「そういけば今日出水が解説するんだっけ。見に来いって言われてたな…」
「えっ、そうなの?」
「いやでもなんかめんどくさいな今日……結構疲れたし…」
「穂村ってほんとに男心分かってないよね敵ながら出水カワイソウ…」
「いや別に私行かなくてもいいかなって……っていうか敵って何」
「うんうん穂村は分かんなくていいんだよー」
「なんか腹立つな」

 犬飼とそんな会話をしつつ、結局見に行くことにした。なんか三雲くんが新しいことを考えてると出水に聞いたのを思い出したからだ。あの子結構やるときはやるからな。うん、やっぱり見に行こう。


 ▽


「いやあ、スパイダーと鉛弾かあ。なるほどね」

 試合を見終わったあと、私は天を仰いでそう呟いた。隣で犬飼が「メガネくんだいぶマシになったねー」と笑っている。いや、うん毎回そうだけど三雲くんやることには驚かせられる。三雲くんのファンになってる自覚ある。呟くと、犬飼に「穂村これ以上おれを弄ぶのやめて心臓に悪い」と言われた。なんの話だ人聞き悪いな。

「いや……でも千佳ちゃん鉛弾か…」

 懐かしい。そういえば鳩原が昔人に攻撃する方法考えて鉛弾に辿り着いていたのを思い出した。多分ユズルがそれを知っていたはずだからあれはユズルが教えたのかもしれない。鳩原はトリオン量が足りなくて結局あの案はなしになってたけど、千佳ちゃんのトリオン量なら実践で使える速さになっている。
 三雲くんのスパイダーもいい感じに形になっていた。出水も解説で言っていたけど空閑くんの身軽さとスパイダーを合わせたらすごい機動力になる。三雲くんも隊長としてやれることを見つけたらしい。

「よし、三雲くんと千佳ちゃんの成長も見れたし帰るかな」
「え、もう帰るの?」
「え、うん。いっぱい動いて疲れたし、というかもう夜じゃん」
「えー久しぶりに会ったのに……学校ないし次会うの卒業式の日になるかもしれないのにさあ」

 帰るかと立ち上がったところで犬飼にそう文句を言われて、そういえば久々に会ったんだと思い出した。犬飼の言うとおり、学校があった時は毎日何もしなくても会えていたけど、同じボーダーとはいえポジションも隊も違う者同士だ。これから会うことも減っていくのかもしれない。

「(なんか、そう思うと…)」

 犬飼が離れていくのは嫌だ、と思った。今まで私の性格に愛想を尽かさず側にいてくれた数少ない友達。そんな犬飼が離れていくのは、嫌だ。鳩原にくわえて、犬飼までどこかに行ってしまうのは、そんなのは…

「穂村?」
「え」
「え、どしたの、急にだまりこんで。もしかして相当疲れてる? やっぱ帰る?」
「あー……いや。…うん、疲れてるかも。らしくないこと考えてた……帰ろう……かな」

 歯切れの悪い返事を返して、俯いた。犬飼はうーん、と何か少し考える素振りを見せて、私の名前を呼んだ。

「じゃあ、明日! 暇?」
「は? …まあ、防衛任務はないけど」
「じゃあ遊びに行こうよ。そしたら今から遊ぶより全然遊べるし。それにこの時間から遊びに行ってもほとんど店空いてないしね」

 どう?と首を傾げる犬飼。私は少し放心状態で犬飼を見返した。

「(犬飼って、なんでこんなに)」

 鋭いっていうか、察しがいいっていうか、優しい、っていうか。こんなに人に優しくしてて、私に付き合ってて、疲れないんだろうか。やっぱり、私にいつまでも付き合わせてしまうのは悪い気がする。そう思いながらも頷いてしまう私は、やっぱり犬飼に離れていってほしくない。私からは、きっと到底離れることはできないんだろう。

「うん、行こう」
「やった! じゃあ明日10時に駅で待ち合わせね!」
「…うん」

 いっそのこと、犬飼から私を突き放してくれればいいのに、と思う。

優しいきみにはできないこと

SANDGLASS