「ちわーっす」
「、え?」
「…あ?」

 自分の作戦室に入ったつもりが、どうやら部屋を間違えてしまったようです。
 扉を開けた体勢のまま固まっていると、その部屋の主――というか隊長――風間さんが「お前は凩の隊の…」と小さく声を上げた。私は少し思案して、「スミマセン間違えましたー」と会釈をして扉をパタリ、と閉めた。さてどうやらフロアを間違ってしまったようだ。凩さんも名風ちゃんも待ってるだろうし早く行かなければ。中で「何事もなかったかのように!?」とツッコミの声なんて聞こえない。恐らく声的に風間隊のあの一番背の高い子だろうし年下だから問題ない。風間隊年下とチビしかいないから(…ゴホン)問題ない。謝ったし。

「ちょっ、ストップ!! 待って下さい!!」
「ゲッ、何謝ったじゃん何なの」
「間違えといてふてぶてしいなあんた…」

 背の高い子に引き止められて、私は思わず顔を歪める。早く自分のとこの作戦室行きたいんだけど。

「風間さんが、先輩に用があるらしくて」
「は? 私?」

 一体何の用だ私に。私特に風間さんと面識と言うか関わりないんだけど。なに、お説教でもされるわけ。部屋間違えただけで? うわあ、めんどくせー。
 背の高い子――確か歌川――に連れられ風間隊の作戦室に戻ってくると、風間さんと歌川と同い年の男の子――確か菊地原――とオペレーターの宇佐美ちゃんがいた。宇佐美ちゃんは割とフレンドリーな性格をしていて、学校や本部で会っても話しかけてくれるので年下だが仲はいい方だ。やほーと片手を上げると宇佐美ちゃんも手を振り返してくれる。

「うわ、噂のドライモンスターだ」
「こ、こら菊地原! 失礼だろ!」
「いーよ別に。慣れてるから。…菊地原くん後でちょっと模擬戦しようか。無装備で」
「怒ってるじゃないですか!」

 歌川のツッコミは聞き流して、私は本題である風間さんに向き合った。それでなんの用ですかと問えば、風間さんは驚くべきことを口にした。

「うちの隊に入らないか」
「………………はい?」

 …どうやら耳が少しおかしいようだ。耳を数回叩いてから、もう一度聞き直す。…また同じことを言われる。何言ってんだこの人。

「え、嫌ですけど」
「濁して言ったり無理ですとかじゃなくて嫌って言うのが穂村さんだよねー」
「いえーい」
「……理由を聞いてもいいか」
「理由も何も私凩隊の隊員なんで」
「それは無理≠ネ理由だろう。嫌≠ネ理由はなんだ」
「だから、私は凩隊の隊員なので、他の隊に移隊は嫌だ、って言ってるんです」

 まあ正直に言うと風間隊は風間さんが冷たそうというか弄りがいないから嫌とか菊地原の嫌味がうざったいとか諸々理由はあるのだがその辺は黙っておくとして。私は多分ある程度雰囲気の良い太刀川隊に誘われたとしても、鳩原のいる二宮隊に誘われたとしても、きっと移隊することはないだろう。凩さん自身にいらないと言われても、意地でも移隊はしない。そのくらいには、私は現状を気に入っているし、満足している。

「それ以外に理由はないです」
「………そうか」
「ハイ。……もう行っていいですか?」
「ああ。引き止めてすまない。もう部屋を間違えるなよ」
「ああ、それはスミマセンでした」

 ペコリ、と会釈をして、部屋を出て行こうとする。後ろで宇佐美ちゃんのまたご飯食べに行きましょーねーという声にはヒラヒラと手を振り返して、菊地原の「なんであんなやつを…」とブツブツ呟く声には無言を返した。つまり無視だ。向こうも反応なんて望んでいないだろうし。

「………橘」
「………ハイ?」
「凩に宜しく頼む」
「? ああ、ハイ」

 うーむ。やはり何だか風間さんは変な人だ。

誘われました

SANDGLASS