「はあ………ねえ穂村どうしよう……」

 目の前で大袈裟に溜息を吐き出し、まさに悩んでいますといったオーラを醸し出している友人鳩原に、私はいつもと変わらない冷めた目を返す。きっと恐らく、この光景を友人知人他人の誰が見ても、私が鳩原をいじめているようにしか見えないだろう。ちなみにこれは先程通りかかった荒船に実際言われたことだ。大きなお世話だと蹴りを入れておいた。それでもはははと笑っていた荒船が気に入らない。今度ランク戦で当たったら脳天ぶち抜いてやる。まあいつもやってるけど。だがうちの隊が荒船の隊に勝てたことはほとんどない。マジ荒船ムカつく。
 …とまあそれはさておきとして。どうして鳩原が悩んでいるのかという話だが。どうやら最近入ってきた新人狙撃手の子に弟子入りをせがまれているらしい。わあびっくり。鳩原に弟子とか、笑える。
 しかし鳩原は狙撃以外はともかく、狙撃の腕なら当真を凌ぐほどと言われているほどなのだし、別にいいんでないの、と軽く答えると、鳩原は更に唸りだした。なんだこいつ。

「でも…………あたしが師匠なんて……あたしの方が穂村に弟子入りしたいくらいなのに」
「え。いや無理。弟子とか無理。鳩原が弟子とかやだ。というか弟子自体いらない」
「ほらそういうやつじゃん穂村は…!」

 うわあんと顔を覆って泣きだしてしまった鳩原を更に冷めた目で見やって、ふうと息を吐き出す。まあ私が鳩原なら悩むことなく弟子入りなんて却下だ。弟子とか、私の器量に納まるとは思えない。私はそんなできたやつじゃない。まだ誰かの下で、甘えて過ごしていたい。

「というか鳩原さ、二宮さんのときもそうだったけど難しく考えすぎなんじゃないの」
「……え?」
「その新人君は鳩原に教えてもらいたいと思ったから鳩原に頼んだわけで、あとは鳩原が実力の通り、教えていけばいいじゃん。失敗したならそれは鳩原が教えるの向いてなかったってだけのことだし」
「………穂村……」

 鳩原は涙の滲んだ目で私を見据えた。

「穂村のこと、心の冷め切ったドライモンスターだって思っててごめん…!」
「思ってたのかよ」

 ツッコみながら、いつもどおりに戻った鳩原に少し笑みをこぼした。


 ▽


 しばらく経って、鳩原が弟子だと思われる男の子に指導をしているのを見た。なんだか面白いものを見つけた心地になって、にやりとその二人に近付くと、私に気づいた鳩原がパッと笑顔になって手を振ってきた。お弟子くんもそれに従い私の方を見た。少々野暮ったい感じは否めないがしかし可愛らしい男の子である。

「穂村」
「やほー鳩原。なんだ、案外ちゃんと師匠やってんだー。ウケる」
「なにが。…あ、ごめんねユズル。えっと、友達の橘穂村。狙撃の腕、すっごいんだよ」
「あは、どーもー。鳩原には及ばないけど狙撃の腕がすっごい鳩原の親友でーす」
「穂村……」

 鳩原が自分ですっごいとか言わないほうがいいよ、というような、親友と言われて嬉しそうな、なんだか色んな感情の混じった顔で見てきたので、へらりと笑い返してやる。これは若干嬉しさのほうが勝ってるな、絶対。

「……どうも」
「あっ、穂村、この子があたしの、で、弟子で、絵馬ユズル。ユズルは凄いセンスのある子なんだ」
「ほー、絵馬くんね。よろしくー」
「…よろしく、お願いします」

 弟子、という言葉に自分で言って自分で照れている鳩原を横目に、私は絵馬くんに握手を求めてみる。鳩原の弟子なら仲良くしておこう。

「なんだ、愚図ってたわりに上手くやってるみたいじゃん」
「ぐ、愚図ってなんか…」
「いやあ、穂村サン安心しましたよー」
「何キャラ!?」

 ツッコむ鳩原はさて置いて、絵馬くんに視線を向ける。絵馬くんは私に気づき、不思議そうに私を見上げていた。

「鳩原をよろしくね」
「………はい」

 うん、しっかりしてそーな子でよかった。

お弟子くんとご対面

SANDGLASS