「穂村! 遠征部隊に選ばれたんだ!」

 朝、教室に行くと、いの一番に鳩原が駆け寄ってきて、そう嬉しそうに報告してきた。私はそれに驚いて、あ、そう、とつい素っ気ない返事を返してしまったが、鳩原はそんなことどうでもいいくらい嬉しいようで、いつも微妙な笑みを浮かべているその口許は緩みきってしまっている。鳩原、そんなに近界に行きたがっていたっけと首を傾げるが、まあこんなに喜んでいるのだから行きたかったのだろう。まったくもって理解はできないが、まあ鳩原がいいならそれは、よしとしよう。
 それにしても遠征か、とどこか現実味の湧かないそれに頭を捻った。私はお金のためにA級には上がりたいが、遠征には行きたいとは思わない。それこそ大事な人が近界にいるとかではない限り。私の場合、その大事な人≠ヘ死んでしまったから、行く理由が皆無なのだけど。…もしかして鳩原には、そういう人がいるのだろうか。そういえば鳩原とはそういう、立ち入った話はしないな、と、ふと気づいた。鳩原とは、好きなものとか嫌いなものとか、それこそそのときに思い至ったくだらない話とかはするけど、自分の家族のこととか、そういうのはしない。まあ別に、しなくたって良いのだけども。きっといつか、どちらからともなく、話すときもくるだろうから。

「まあ、おめでとー。良かったね」

 鳩原は今まで見たことのないくらい明るい笑顔で、うん、と頷いた。


 ▽


 鳩原の遠征取り消しを上層部から伝えられたのは、それからしばらく経ったころのことだった。鳩原の、というか、二宮隊の、なのだが、問題はその遠征取り消しの、理由にあった。

 上層部は、鳩原が人を撃てないから、という理由で二宮隊の遠征取り消しを決定した、らしい。

 なんだよそれ、と思ったが、まず一番に心配しなければならないのは鳩原だと思い至って、私は鳩原に声をかけた。前の笑顔が嘘のように落ち込んでいた。

「……鳩原」
「………遠征取り消し、あたしの、せい、だね」
「………」
「そんなことないよ=Aって、穂村なら言わないでいてくれるって、信じてた」

 痛々しい笑顔に、私は何も、言うことが出来なかった。そんなことないよ、なんて私は何も知らないから、そんな無責任なこと言えるはずもない。キレイゴトなんて、今の鳩原にはきっと通じないし、私はキレイゴトなんて、大嫌いだ。

「………やっぱり人が撃てないと、だめなの、かなあ」
「………」
「二宮さんも犬飼くんも、辻くんも氷見ちゃんも皆、認めてくれてたのに」
「………」
「…結局あたしのせいで、全部ダメにしちゃった」
「………鳩原」
「……穂村」
「、」
「あたしはやっぱりダメなやつなんだよ」

 この時。
 そんなことないよ=Aって、キレイゴトだろうがなんだろうが、言ってやっていれば、何か、変わっていたのだろうか。

 私は今でも、分からない。

キライなキレイゴト

SANDGLASS