落ち込む鳩原を、私も二宮隊の面々も、それはもうガラにもなく必死に慰めた。だけれど、よくも悪くも責任感の強い鳩原は一向に元気にならなくて、皆、お手上げ状態だった。
「………橘」
「、…二宮さん?」
そんなあるとき、ラウンジで二宮さんに声を掛けられた。どうもと会釈をして、何か用事があるのかと首を傾げると、二宮さんは私の向かい側の席を指差して、少し良いかと問うてきた。ああはいどうぞと頷けば、二宮さんはどかりとそこに座って、はあ、と疲れたような溜息を吐き出した。大丈夫ですか、と、形式上の声を掛けると、ああ、と疲れたような声が返ってくる。
「………お疲れですね」
「…いや、大丈夫だ。……それより、鳩原は」
「、はい?」
「……鳩原は、今どうだ」
「……まあ、前よりは元気になったんじゃないですか。私がガラにもなく慰めた甲斐あって」
「……そうか」
ほ、と息を吐く二宮さんを数秒見つめて、ああやはり凩さんが言うようにきっと根は良い人なんだろうと納得する。一見言ってることは冷たいが、何よりも隊員を一番に考えている。
「二宮さんは」
「、」
「鳩原のせいだと思ってますか」
「………」
なにが、とは言わない。きっとなんのことか絶対に分かっているだろうから。二宮さんは数秒黙って、いや、と短く一言、答えた。
「上層部の見る目がなかった、それだけだ。俺の見立ては間違っていない。それに」
「、」
「俺はお前じゃなく、鳩原を誘ったことを今でも後悔していない」
そう言って、静かに立ち上がった二宮さんを、無表情に見上げた。二宮さんも、無表情に見返してくる。
「そうですか」
静かに、口を開いた。
「それなら良かったです」
▽
鳩原が隊務規定違反でクビになった、という話を、凩さんから聞いた。気遣わしげに私にその事実を告げた凩さんは、心配そうに私の名前を呼んだ。私は答えずに、携帯を引っ掴んで作戦室を出た。
鳩原は今日、学校を休んでいた。もしかしてそのせいなのか。だけど今日だけじゃなくて、昨日も一昨日も、その前も休んでいたのはどういうことか。電話をかける。コール音が響くだけで、繋がらない。嫌な予感しか、しなかった。
鳩原未来は失踪してしまった、らしい。私にもなんの相談もなく、親友、だったはずの鳩原未来は、居なくなってしまった。同時に、A級だった二宮隊は、B級に降格してしまったらしい。どうして、と犬飼に聞いたら「鳩原が人を撃てないことで隊全体が懲罰的にB級に降格された」らしい。意味が分からなかった。今までは何も言っていなかったくせに、もう、わけが分からないことだらけだった。
「なんだ、案外平気そうだな」
皆、私を見てそう言った。どうやら傍から見て私の態度はそう見えるらしい。平気、なんだろうか、と、自分で錯覚してしまう。だからドライモンスターなのか、なんて。
「橘」
また、二宮さんに話しかけられた。例のことで色々と忙しくしているらしく、前よりもずっとやつれてしまっていた。自販機の前で出会したので、二宮さんにお茶を一本買って手渡す。お疲れ様です、と一言声をかけて。お茶を受け取ると、二宮さんはそれを受け取って、「ありがとう」と小さくお礼を言った。どういたしまして、と、小さく呟いて、二人並んで近くのベンチに腰を掛けた。
「大変そうですね、色々と。絵馬くんなんか、凄い怒ってましたけど。鳩原先輩がいなくなったのは二宮隊のせいだ≠チて」
「……そうか」
「鳩原、だいぶ好かれてたんですね」
「……橘」
「、」
「お前も、そう思っているか」
「……ハイ?」
「鳩原がいなくなったのは俺たちのせいだと、そう思っているか」
ガラにもなく弱気だなと、思った。よく二宮さんを知っているわけではないが、そう思った。
私はいいえとだけ答えて、黙りこむ。二宮さんも「そうか」と頷いたきり、何も言わなかった。
「…………皆」
「、」
「皆、私を見て言うんですよ。案外平気そうだな≠チて」
「………」
「皆に言われるから、私も鳩原がいなくなっても平気なのかなって思ったりして」
「………」
「でもそんなわけないんですよ。いくら、いくら私がドライモンスターだって言われてても、親友に何も言わずに消えられて、平気でいられるような神経は持ち合わせてないんです」
鳩原が失踪したって聞いたとき、親友って何だろう、って思った。私は鳩原が一番仲の良い友達だと思っていたし、鳩原もそう思ってくれていたのだと思っていた。だけど、違ったのかもしれない、なんて考えて。
そうして、私と鳩原はきっと親友なんかじゃなかったのだと、気づいた。親友っていうのはきっとなんでも言い合える仲のことで、なにも重要なことを話しあえていなかった私と鳩原はきっとまだ、親友なんかじゃなかったのだ。
「………鳩原は、帰ってくるでしょうか」
「………さあな」
携帯を出して、お互い写真嫌いな私と鳩原で一枚だけ、犬飼に撮られた写真を表示した。珍しいツーショットだったので犬飼に送ってもらったもので、鳩原は照れながら嬉しそうに保存していた。
「………帰ってきたらただじゃおかない」
だから早く戻ってこい。
親友って一体何ですか