「あっ! 穂村先輩!」
「、おー太一じゃん」
鳩原の一件から少しして、太一が私に駆け寄ってきた。近くには来馬さんやオペレーターの今ちゃん、それと確かよく覚えてないけど最近入ってきたばかりの攻撃手の男の子がいた。多分同い年で、荒船と仲が良かった、気がする。よく覚えていないので曖昧だが。
抱きついて来ようとする太一のおでこを抑えて止めてから、太一についてこちらに歩いてくる来馬さんにぺこりと会釈をする。「久しぶりだね、元気だった?」と変わらない穏やかな声に、こちらも少し笑みを零す。それを見た太一が「穂村先輩が笑った…!?」と大袈裟に驚いていたので思い切りデコピンをお見舞いしてやった。ここにペンがあればデコペンをしてやったのだが。デコピンよりもデコペンのほうが痛い。と思う。私は。
痛がりうずくまる太一を見下ろして、ふうと息を吐く。しかしまあ、一応しばらくこいつにも多少迷惑はかけていたので謝らねばなるまい。
「太一、しばらく修業付き合ってやれなくてごめんな。今日時間あるなら見てやるけど」
「えっ……あ、いえ! そんな! し、親友に置いて行かれたんだから、そんなの落ち込んでて当たり前……あいだっ!?」
「こっの、馬鹿太一! あんたは言葉を選びなさいよ…!」
「あー、今ちゃんいーから。こいつ馬鹿だし」
「ぅえ!? お、おれなんかマズイこと言いました…!?」
「あんたはね…!!」
太一は安定の馬鹿だと若干呆れながら、今ちゃんに怒られる太一の姿を見守る。我が弟子ながら本当に人の気持ちがわかっていないというか……いや、考えているだけ私よりよっぽどマシなのかもしれないが。私もよく人の気持ちが分かってないと言われていたので懐かしい。まあ今も言われるのだけど。
そんなことを考えてふと視線を感じ、そちらに目を向けると、例の同い年の男の子が、こちらをじっと見ていた。私と目が合うと、その子は少し目を大きくして、「……どうも」と小さく会釈をしてきた。私もとりあえず会釈を返す。未だ怒られている太一は放置して、パッと来馬さんの方を向いて彼のことについて問うと、来馬さんはああと変わらない穏やかなな笑みを浮かべて、私にその子を紹介してくれる。
「こいつは村上鋼。ウチの隊の攻撃手なんだ。確か穂村ちゃんと同い年だよね? 高校三年生。…鋼、こっちは凩隊の橘穂村ちゃん。今は太一の師匠でもあるんだよ」
「ほー、村上くんね。よろしくー」
「呼び捨てでいいぞ。よろしく、橘」
「あそう? じゃあ村上」
丁度自己紹介を終えたとき、背中にドンッと衝撃が走る。「助けてください穂村先輩!」と太一の声が聞こえて、今ちゃんの怒ったような声も同時に聞こえてきて瞬時に色々と理解した私は、思い切り後ろに肘鉄をかましてやった。グエッとうめき声。ざまあみろ。
「ひどいっすよ穂村先輩〜…」
「知らん。抱きついてくるな馬鹿」
どいつもこいつも私は仮にも女子だというのに軽々しく抱きついてきやがって。腹が立つ。
「まあまあ、勘弁してやってよ、穂村ちゃん」
「来馬さんは太一を甘やかし過ぎでは」
そうかな、と苦笑する姿はどことなく凩さんを彷彿とさせる。ううむ、来馬さんはイケメンなわけじゃないけどやっぱり似てるんだよなあとなんだか怒気を削がれて、はあと息を吐く。まあいいや。
「太一、修業付き合ってやるけどやるのやらないのどっち」
「! や、やります!」
「よし。じゃあ来馬さんこいつ借りますね」
「あ、うん。頑張ってね」
ぺこりと頭を下げて、太一に引っ張られながら訓練室へ向かった。
怒れないひと