「おうやっほーユズルー」
「……………」
絵馬くんと話した日から数日、私は鳩原と仲良くなったときのような積極性で絵馬くんに絡みまくっていた。勝手に呼び名も絵馬くん≠ゥら、ユズル≠ノしてみたり(呼び始めた瞬間からまた犬飼が何やらうるさくなった。おれも名前で呼んでよと言われたのでイヌハルと呼んだらまた怒られた)、当真と師匠の座を争ってみたり(これをやると太一が拗ねたりユズルに今までにないくらいに睨まれたりで面倒なことになったのでそれ以来はやっていない)。まあ色々やった結果、鳩原の時とは違いかなり鬱陶しがられるようになったのだが、まあいいやとそのへんは気にしないことにしている。
何故こんなことをやっているのか。それはユズルが鳩原の弟子だから、だ。言葉が足りないので付け足すが、鳩原がいなくなってから私もいろいろと考えて、鳩原が居なくなった今私に出来ることはなんだろう、と考えた結果、出てきたのがこれだった。鳩原の弟子であるユズルのことを気にかけてやることくらいは、今の私にだって出来るんじゃないか、と、そう思ったのだ。
「………ってあれ、ゾエさんじゃん」
「ん? あれ穂村だー。ユズルと知り合いだったんだ」
「違うよゾエさん、師匠の知り合いってだけ」
「おう冷たいねユズルくんや」
この野郎、と軽く首を絞めてやると、苦しいのか若干顔を赤くして腕をタップしてきた。私は優しいので開放してやる。
因みにゾエさんこと北添尋は、学校こそ違うものの同い年ということで会ったら話す中である。同い年なのにゾエさん≠ネのは、ゾエさんの雰囲気がそうさせているのである。自然とそうなった。
「というかゾエさんとユズルこそ知り合い?」
「いやいや、何言ってるの穂村。ゾエさんたちは同じ隊の隊員だよ」
「え、そうなの?」
「そうそう。ね、ユズル」
「………まあ」
ふい、と顔を背けながら言われたそれにふーんと頷いて、首を傾げる。一体どこの隊だ? と考えていれば、答えを出す前にゾエさんが教えてくれた。
「影浦隊、だよ。名前くらいなら聞いたことあるでしょ?」
「かげうらたい………ああA級の」
「そうそう」
へえゾエさんもユズルも影浦隊の所属だったのか。ふうんと相槌を打ってから、じゃあ影浦隊の影浦とはどんな奴なんだろうと少し気になって、ゾエさんに聞いてみた。するとゾエさんは少し苦い笑いを浮かべて、うーんと唸った。
「今なら模擬戦会場いると思うけど………とりあえず会ってみる?」
ほうと頷いて、帰ろうとするユズルの首根っこを掴み模擬戦会場へと向かう。ゾエさんとユズルの隊長とは、一体どんな奴なのか。凩さんや来馬さんのような人だろうか。それとも太刀川さんとか、二宮さんのような人だろうか。それとも……
「おーいカゲー! ちょっと今いいかな?」
「あ゛あ? んだよ俺ぁ今から鋼と試合すんだよ邪魔すんな!」
「……………オウ」
なるほどそうきたか。
少し遠くに見える黒いウニみたいなヤツを見つけて、私は若干引き気味にそう思う。今のところ私の知ってる隊長の中でどのタイプにも当てはまらない。そうか高校生が隊長なのかとかマジであれがゾエさんやユズルの隊長なのかとかまあ色々と頭を巡ったが、とりあえず一言。
「ねえあれって寝癖?」
「あ、第一声それなんだ」
「いやだってマジでウニみたい」
「穂村ってなんか色々とズレてるよね…」
「何言ってんの超正常でしょ」
しかしゾエさんの言葉に私に襟首を掴まれたまま黙っていたユズルまで頷き始めて、なんだか解せない気分になる。何だよあの髪型気にならないのか私すっごい気になるんだけど。でも自分からは関わりに行きたくないこの矛盾。だってあの髪型だよ? なんかホントあのウニ頭触ったらチクチクしそうというか痛そう………無理だ向き合えないわ…
「おいゾエ」
「あ、カゲだ」
「、うわ」
「お疲れ様カゲさん。どうだったの?」
黙っていたユズルが模擬戦を終えたらしいウニ頭、もとい影浦に声をかけた。おい私がいるとほとんどしゃべんないくせにお前は。
「あ゛あ? 勝ったに決まってんだろ」
「そっか。お疲れ様」
「おう。…でゾエ。何の用だよ? まさかそいつのことか?」
「あ、そうそう。穂村がカゲに会いたいって言うから」
「いや会いたいとは言ってないどんなやつか聞いただけ」
「穂村=H あのドライモンスターとかいう」
「そうそう」
「そうそうじゃねえよおーいゾエさん」
というか私の名前どんだけ知れ渡ってんだとうんざりしていれば、ふとこちらを見ていた影浦と目があった。…うーわあ、やっぱりウニみたい。いやマジで触ったら痛そう………ホント近づきたくない……
当の影浦は私を見たまま変な顔をしている。何だ一体。
「……お前今何考えてる?」
「……は?」
「何かこう………敵意でも好意でもねえ変な感じがする」
「…はあ?」
何言ってんだこいつと顔を歪めて見せれば、黙ったままの影浦に代わりゾエさんが説明をしてくれる。
「カゲはね、感情受信体質≠チていうサイドエフェクトを持ってるんだ」
「………感情受信体質?」
「そう。簡単に言ったら………相手が自分に抱いている感情が、肌にチクチク刺さってくる感じがするんだよ」
「……はあ。ほー。サイドエフェクト」
「そうそう、サイドエフェクト」
サイドエフェクトとか持ってる奴ほんとにいたんだ…と違うところに感心して、ああでも風間隊の菊地原は確か耳がいいとかいうサイドエフェクトを持っていたなと思い出す。しかし珍しいのに代わりはないので物珍しげに影浦を見た。
「カゲさん、変な感じってどういうこと?」
ユズルが未だ変な顔をしている影浦に問う。影浦は居心地の悪そうな顔で、はてと首を傾げた。
「……何かこう………分かんねえけど、刺さってくるもんが細すぎて、痛いっつーか痒いんだよ」
「ほう痒い」
「テメエ何考えてる? 痒い、ヤメろ」
「やめろと言われても…………頭ウニみたい痛そうって思ってただけだし」
「はあ? ウニィ?」
両隣でゾエさんとユズルが噴き出す気配。影浦はますます変な顔をして、声の音量を上げて叫んだ。
「お前……………変なやつだな」
「いやだから超正常」
「………」
ジ、と睨まれて、私も睨み返す。怯えるようなピュアで可愛らしい女の子じゃなくてスミマセンネェ。
しばらく睨み合った後、影浦がはあと溜息を吐き出し、手を差し出してきた。
「俺は影浦雅人だ。まあよろしくしてやってもいいぜ」
「え。いやいいです…」
「あ゛あ!?」
上から目線にどん引きして首を横に振る。
後ろでは未だゾエさんは思い切り大笑いして、ユズルは懸命に笑いをこらえていた。
影浦隊の隊長さん