「………ここかウワサの玉狛支部」

 携帯に送られてきた写真と目の前の建物を見比べて、ボソリと呟く。
 私は今、噂でしか知らなかった玉狛支部≠ヨとやってきていた。というのも、まあ色々と事情はあるのだけど、簡単に説明すれば、凩さんを迎えに来たわけなのである。…うんいや分かんないだろうねざっくり過ぎてて。
 えーとまず、事の始まりは、今から一時間くらい前。太一に指導をしていたところ、私の携帯に凩さんの携帯から一件のメールが届いたのだ。

「………は?」
「? どうしたんすか? 穂村先輩」
「おい勝手に携帯覗くな………っておい!」
「なになに……凩啓太は預かった。返してほしくば玉狛支部まで…≠チてええ!? やばいじゃないっすか凩さんがゆうか…モガッ!?」
「声が大きい馬鹿弟子が!!」

 慌てて口元を抑え、改めてその胡散臭い内容のメールを見る。スクロールしていくと、あまり綺麗とは言えない建物の写真も添付されている。さてどうしようかと息を吐いて、頭を掻く。

「………とりあえず太一」
「ハイ!」
「今日の修業はここまで。お前は今日見た事をすべて……教えたこと以外をすべて忘れて、真っ直ぐに家に帰ること。…いいな」
「了解っす!」

 どうせ大したことはないのだろうし、太一に無駄に言いふらされて凩さんの威厳が落ちてしまっても困る。いや元々威厳なんて欠片もないのだけど、更に。凩隊の沽券にも関わるし。まあとりあえず、迎えに行くしかない。

 …とまあそんなわけで迎えに来たのだけども。

「………帰ろうかな」

 早々に面倒くさくなってきた私である。いやでもね、ちゃんと来ただけでも偉いと思うんですよ私。名風ちゃんに言ったら「そのうち帰ってくるんじゃないですかね」って言われたんだよいや本当に名風ちゃんの方がドライモンスターだよね私まだマシだよねうん。でもきっちり玉狛の場所を調べて教えてくれた名風ちゃんはきっとドライモンスターなんじゃなくてツンデレなんだなと思った。だって絶対名風ちゃん凩さんのこと大好きだもんね。うん。
 まあでもここまで来たので一応顔は出してみようと思う。

 インターホンを押して、しばらく待つ。と、中でバタバタと走る音が聞こえてきた。

「………」
「……はーい……ってあ! 穂村さんだ〜お久し振りですね〜」
「……え。あれ宇佐美ちゃんじゃん」

 ガチャ、と扉を開けて出てきたのは風間隊のオペレーターのはずの宇佐美ちゃんだった。何でここにいるのと首を傾げれば、「玉狛に転属したんですよ」と言われた。へえそんないつの間に。知らなかった。まあこっちはこっちでバタバタしてたからな…

「………ところで、宇佐美ちゃんや」
「ハイハイ? なんでしょう?」
「このメールは一体何かな?」
「ああそれ! いやあ迅さんととりまるくんが調子に乗っちゃって。あ、凩さん中にいますよ」
「迅さん? とりまる?」

 とりあえず案内してもらいながら、事情を説明してもらう。
 まず、迅さん≠ニやらに誘われ、玉狛支部へとやってきた我らが隊長、凩さんは、その人柄ですっかり玉狛に馴染み、しばらく和気藹々としていた。そうして一人が「凩さん玉狛に来ちゃえばいいのに」と言い出し、その話で皆がまた盛り上がった。ヘタレでお人好しな凩さんは「隊員に聞いてみないと分かんないよ…」と言って遠回しに断ったらしいのだが、そのままその迅さん≠ニとりまる≠ニやらが凩さんの携帯を取り出し、私にメールを打ち始めた。そうして私に届いたのが、そのメール……と。
 ………ほう。

「おーい凩さん穂村さんが迎えに来たよー」
「えっ、わあ橘来てくれたん…」
「あ、私帰りますねー失礼しまーす」
「ええええあれなんで!?」

 いやあもうなんか話聞いてて馬鹿馬鹿しくなったというか、凩さんが玉狛でほんわかくつろいでいるのを見たら力が抜けたというか、とにかく何でもないようなので帰ってもいいかなと。しかし「いやほんとに玉狛に入れられちゃいそうだから助けてよ!?」と泣きつかれて、仕方なくその場にとどまる。

「…で迅さんととりまるとやらはどいつですか」
「ん? おれだよ、迅。迅悠一っての。よろしくねーえーと穂村ちゃん?」
「橘です気安く名前読んでんじゃねーよしね」
「あれ超口悪いね!?」
「迅……だから言ったじゃん…」

 自分が迅だと名乗りを上げた青ジャージの男の人についつい毒を吐けば、凩さんがはあと溜息を吐き出した。どうやら私のことについて話していたらしい。

「俺がとりまるです」
「ほうなにか言うことは」
「脳天ぶち抜きだけは勘弁してください」

 次に名乗りを挙げたとりまる≠ヘどうやら私のことを知っているらしく、無表情で頭を下げてきた。いや私のこと知っててそれが嫌ならそういうことすんなよ普通に……

「すまない、迅と京介が迷惑をかけたな」
「はあ………京介?」
「烏丸京介。とりまるっていうのはあだ名だ」
「ほう。そうすか」
「京介は俺の弟子なんだ。すまなかった」

 ペコリと頭を下げてきた筋肉のすごい人。それに少し気圧されつつ、イイエ大丈夫ですと首を横に振った。木崎レイジ≠ウんというらしいその人はとても真面目そうでマトモそうだ。

「まったく、迅もとりまるも他の隊に迷惑かけてんじゃないわよ! まったく…」
「なんだよ小南だって超ノリノリだったくせに」
「のッ、ノリノリなんかじゃないわよ! ば、馬鹿じゃないの!? 別に凩さんに玉狛に来て欲しいとかそんなんじゃ…!」
「分かりやすいね〜こなみー」

 ふん、と偉そうに話しだした女の子はどうやら凩さんのことが好きらしい。小南、と呼ばれたその子を皆してからかい出す。おう物凄い遊ばれてる。

「……じゃあ凩さん連れて帰ってもいいですか」
「、ああ。すまなかったな。お詫びに飯でもご馳走するから、また玉狛に遊びに来るといい」
「ああはいどうも」

 あ、なんか小南って子がすごい寂しそうな顔してる……凩さん気づかない。おいヘタレな上鈍感とかお前なんなの。ラノベの主人なのかありえないんだけど。
 まあ私には関係ないことなので放置して、とりあえずもう帰ろうと思う。

「………あ、橘」
「、ハイ?」

 帰り際、迅さんに呼び止められて、何だろうと振り返る。

「凩隊は玉狛に入るよ。おれのサイドエフェクトがそう言っ…」
「あ、そういうのいいんで。失礼しまーす」

 ボキッと何かが折れる音がしたが無視して、私は凩さんの首根っこを掴み玉狛の基地を出た。

「ちょっ、くび! くび締まってる!!」

 あー何も聞こえない。

フラグが折れた

SANDGLASS