「お、これ俺も読んでるぜ」
「………」
何だこの人。
私は突然目の前に現れ、そう話し掛けてきたその人を見上げ、眉を寄せた。その人はそんな私の目を気にすることなく私の手から読んでいた本を取り上げ、「お前の歳でこんなん読んでんの珍しいなー」と物珍しげにパラパラと本をめくっている。一応別のところに差していた栞を差してくれたのはいいが、何なんだこの人怖いんだけど。
先ほどまで私は暇だったので先日買ったばかりの推理小説をすべて読みきってしまおうと、ラウンジで本を読み耽っていた。そうしていたら突然、この人が冒頭の台詞を述べて話し掛けてきたのだ。何なのだろう本当にこの人は。煙草吸ってるし目つき悪いし関わりたくない…
「…ナンパ?」
「ちげーよッ!! 俺だ俺!」
「オレ田オレさん……あ、オレオレ詐欺?」
「それも違う! ランク戦で対戦したことあるだろ!? 諏訪隊の隊長だよ!」
「諏訪隊……………あー…?」
うろ覚えだが何となく聞いたことのあるようなその名前に微妙な反応を返せば、「記憶力どうかしてんじゃねーのか」と落ち込まれた。いや私記憶力はいいほうですよ割と。というか煙草臭いんであんまり近くに寄らないでもらえますかね煙草嫌いなんで。そう言ったら「ああ悪いな」と吸っていた煙草を消してくれたので多分悪い人ではないのだと思う。変な人だけど。
「その様子だと………諏訪さん?は私のこと覚えてるんですか」
「ん? ああ。見事に脳天ぶち抜かれたからな」
「ほう」
ランク戦………脳天ぶち抜き………ダメだやり過ぎてて全く覚えてない。うーむと首を傾げていると、「諏訪さん!」と聞いたことのある声が近づいてきた。
「あれ堤さんだ」
「ん? ああ橘? 何やってるの?」
「この人に絡まれまして」
「諏訪さんに?」
「おい待て何でお前堤は知ってんだ」
「え。だって凩さん…うちの隊長と仲がいいようなので」
ねー、と堤さんと顔を見合わせて首を傾げ仲良さをアピールしてみると、諏訪さんが「凩か…」と額を抑えていた。
堤さんは何度か凩さんを通じて話したことがある優しげーな先輩だ。どうやらこの諏訪さんはこの堤さんの隊の隊長らしい。ほうなるほど堤さんのとこの隊長さんか……
「…………あー…………なんか……思い出したよう…な……?」
「堤で!?」
「うーん……………前シーズンのランク戦で三試合目に荒船隊と三つ巴しました?」
「お、おう……そうだな」
「………………荒船の頭撃ち抜けたのが嬉しすぎてまったく諏訪さん?の記憶がない」
「そこまで思い出しといて!!」
「諏訪さん落ち着いて」
うーん……堤さんがいたからなんとなくは覚えてるんだけどな……いたっけ諏訪さん…
「………多分もう思い出せないんで諦めていいですかね」
「ああもういいよ………ドライモンスター……そういうことか…」
「あの皆私と話すとそうやって納得するんですけどなんなんですか私なんかおかしいんですか」
「いや噂を聞いて実際話してみてなるほどそうかと再確認する割と珍しいパターンだよ」
「マジすか」
「マジだよ。俺もこんな奴いたのかと驚いてる」
そうか……再確認するのか……私のドライモンスター加減凄いんだな……全然自覚ない……というか私のドライモンスターたる由縁は私が脳天をぶち抜く非情な戦い方をするからだと今まで思っていたのだがどうやら違うらしい。何がいけなかったんだろうか………分からぬ……今の会話思い返しても全く思い当たらないよ…
「………」
「………?」
「………」
「………お、おい?」
「………諏訪さん」
「っ、お、おう?」
「もう頭こんがらがってイライラしてきたんでちょっと脳天ぶち抜かれてくれませんか」
「誰が頷くんだよボケ!!」
ベシッ!と頭を叩かれて、私は思わず舌打ちをした。
「…ケチ」
「誰がケチだ可愛くねえな!!」
「諏訪さん落ち着いてまだ高校生だから…」
「堤お前は甘すぎる!!」
ぎゃあきゃあとうるさい声を聞きながら、私は読んでいた本をそっと鞄の中に座った。ああ今日はもう本を読めそうにはない。
とりあえず脳天ぶち抜きたい