「あれ、二宮さ…」
「…う゛…」
「え。…ぅわあぁ!?」
どさっ。
何だか凄く久しぶりに見かけた二宮さんに挨拶をしようと片手を上げると、何故だか突然二宮さんが倒れこんできた。慌てて避けようと後ずさりしようとするが間に合わず、全く構えていなかった私は一緒にその場に倒れこんでしまう。
「…えええ……なにこれ………」
二宮さんと会うとどうにも乙ゲー展開が多いように思うのだが気のせいだろうか……なんてそんなことを考えている場合ではなく、一応二宮さんに声をかけて見るが、やはり気を失ってしまっている。先ほど見た限りだと隈もすごく前よりもやつれてしまっているように見えた。眠れていないのだろうかと心配も頭によぎるがいやその前にやはりこの状況をどうにかせねばまずい。成人男性が上に乗っかっているとなんか息が苦しくなってくる。肺が圧迫されて呼吸がしづらい。誰か助けて。
「…えっ!? 穂村…!? 何やってんの!?」
「あ゛…? その声は犬飼…か…? 丁度よかったちょっと二宮さん退けるの手伝って…」
「ぅわあああ穂村の浮気者ー!!」
「はあ!? 何言ってんだお前っつーか早く退けるの手伝えよッ!!」
▽
「…畜生…なんで私が…」
あの後無事犬飼と協力して二宮さんを上から退けて、医務室まで運ぶことに成功した(その場に放置しようとしたら犬飼に止められた)のはいいものの、担当医が居らず犬飼もこれから防衛任務とかで、私が二宮さんを見とく羽目になってしまった。いや私は帰ろうかと思ったのだが犬飼に二宮さんが起きてすぐ動かないよう見張っておくよう言われてしまい動けない状況にある。どうやらここ最近無理ばかりしているらしく休息を取るよう言っても聞いてくれなかったらしい。つまりはまあ、こう言っては何だが休息を取ってもらうチャンスらしい。動きたきゃ動きゃあいいじゃねえかと思うがまあ暇といえば暇だし犬飼にあそこまで言われては残らないわけにはいかない。しかし早々に帰りたくなってきた……
「…凩さんに連絡入れとこ」
あの人一応二宮さんの幼馴染って言ってたしと携帯を取り出しラインを開く。多分二宮さんが倒れたって言ったら即行で飛んでくるだろうしあわよくばここでの様子見変わってもらおう(そっちが目的とかそういうわけじゃない)。
凩さんに連絡を入れて数分後、本当にすぐ凩さんが飛んできた。
「え、マジで早くないすか……気持ち悪っ」
「何でだよ! …いや丁度医務室の近くにいたからさ。それより二宮は…」
「ああ、そこで寝てます」
目の前のベッドを指差せば、凩さんはそちらに近づき二宮さんのベッドを覗き込んで、はあと思い切り溜息を吐き出した。
「隊員が居なくなってから………始末書とか上層部に色々言われたりで色々忙しくしてたみたいでさ…」
「……ああ、鳩原の件で」
そうか始末書……大変そうだな、とそこまで考えたところで、ん?と首を傾げる。鳩原が人が撃てないことで二宮隊がB級に降格して、それに責任を感じた鳩原が失踪……それだけで(いや軽いことではないのだが)こんな時期までいざこざがあるのだろうか。始末書にしても上層部との話にしても、長すぎやしないだろうか。それを凩さんに言ってみれば、凩さんはまずいという顔をして、「そ、そんなもんなんじゃないかなあ」と分かりやすく誤魔化した。
「………」
「…あ、あはは」
「……凩さん、何か知ってますね」
「……う゛」
「まあ、聞かないであげますけど。秘密があるんだったらもうちょっと嘘を吐けるように頑張ったほうがいいんじゃないですか?」
「…………う、うん。…ありがとう、ごめんな」
「イエ別に」
何故凩さんは知らされていて、私は知らされていないのかとか、凩さんが誤魔化した内容とか、色々と気になることはあるが、追求はしないことにした。私は今、知れる立場にいない。だから聞いてはいけないと思った。
「…じゃあ、凩さん。私帰るんで。二宮さんのことお願いします」
「、ああうん」
頼んで、私は医務室から出た。
▽
「賢いやつだな」
「っ!」
橘が出て行って、脱力して、はあと大きく溜息を吐き出した瞬間、近くで聞き慣れた声がして、俺はビクリと肩を震わした。パッと声のした方を見れば二宮が目を覚まし起き上がろうとしていて、慌てて止める。
「寝てろよ。暫くついてるから」
「…大丈夫だ。それより防衛任務は」
「犬飼たちが行ってるって。…それより、起きてたのか、さっき」
「…ああ」
それにまた大きく溜息を吐き出して、先ほどまでいた、聡い自身の隊の隊員に思いを馳せる。あいつは面倒臭がりだし人の心が分からないドライモンスターだと呼ばれていたりはするが、とても聡明で、踏み入っていいところとそうでないところの線引きと見極めが上手い。先程もその聡明さにドキリとさせられ、見極めの上手さに安心させられた。俺はあいつの知りたいことを知っていて、しかし言うことができない立場にいる。
「…あいつに伝えないことを選んだのは俺なんだけど、さ」
「…多分、何かあるのは気づいているだろうな。あいつはうちの隊員とも交流が深いようだ」
二宮は寝転んだままそう言って、深く息を吐いた。
あいつの親友がいなくなって、二ヶ月が経とうとしていた。あいつは一見変わりなく、いつもと変わらない日常を過ごしている。
「多分、俺はあいつのために遠征部隊を目指してやるべきなんだろうな」
「……そのためには俺の隊に勝つ必要があるな」
「はは、それは厳しそうだな」
俺は今一歩、踏み切れないでいる。
知る者、知らない者