「ん? 橘って凩さんが好きなんじゃねえの?」
「………は?」
当真の言葉に、私は思わず顔をしかめて聞き返した。なんて事ない話をしていた、はずだった。先日の名風ちゃんの話で、恋ってよくわかんないなーうんたらとらしくないことを何となく訓練で、隣のブースにいた当真に漏らしていたら、そんな答えが返ってきた。心底疑問に思っているような、不思議そうなその様子を見るに、からかっているわけではなさそうだった。
「私が凩さんを? ナイわー。無理無理。私木崎さんに出会ってから料理できる男の人としか結婚しないって決めたんだよね。凩さんあんな見た目で料理出来ないんだよ。ありえないわ」
「結婚て、そんな急な話じゃなくてよ」
「? じゃあなに。そりゃあ好きか嫌いかなら好きたけど」
「なんつうの? お前の言動横で見てていっつも思ってたんだけどな? ……あー……なんつうかさ、」
「なんなの」
はっきりしない当真に、段々と苛立ちが募っていく。意味分からん。なんなんだよ。
「橘さ、物事の基準が大体凩さんなんだよ」
「……はあ?」
「例えば鳩原にお前がらしくねえこと言ったときとか、あれだって凩さんが基準だったろ」
「………そうだっけ?」
そんなこと言ったような、言ってないような。凩さんが基準だなんて考えたことはなかった。ただふとした瞬間に、凩さんが出てくるだけで。でもこれはなんか、恋とかそういう感じじゃなくて、なんというか。
「いや、だからそれが凩さんが好きってことなんじゃねえの?」
そういうものか。
▽
「凩さん」
「んー?」
「私って凩さんが好きなんですかねえ」
「んー…………ん?」
「え?」
当真とのその会話から数日、凩さんと訓練室にて二人きりになったので、そう話を切り出してみた。すると凩さんは泣きそうな顔で私を勢い良く見やった。え、なに。
「お、俺お前に好かれてなかったのか…!?」
「……は?」
「ちょっと待って何それ辛い隊結成して何年目だよおい」
「いやいやいやいや、そうでなくて」
思わぬ方向に受け取られていて、少し頭が痛くなる。何だこの人、天然記念物かよ。
「私が言ってるのは、恋愛的なアレで」
「え? …ああなんだ………………っていやそれでも結構な衝撃だけどな!?」
「というか凩さんてアレですか、女の子からの告白に笑顔で「俺も好きだよ!(友達として)」って返しちゃうタイプですかうわあ引くどこのハーレム漫画の主人公だよ」
「勝手に想像して引くなよ! 流石にそれはナイから!」
勝手にどん引きし始めた私にツッコミを入れて、凩さんは大きく息を吐きだした。若干疲れている。というかなんの話だっけ。
「流石に女の子の告白の意味くらい分かるし、ちゃんと断ってるよ」
「うわあ、告白されるのは否定しないんだ」
「なんでそこで引くんだよ!! …っていうか今勘違いしたのは、橘がそんなこと言ってくるわけないって俺が勝手に思ってるからで…」
「……へえ」
まあ私恋愛の話とかしないしな。ましてや凩さんとなんて、もっとしない。
「何でそんな話になってんの?」
「え? …ああ、なんか当真に言われたんですよね。そう見えるらしくて。…なんだっけ、私の基準が凩さんになってるとか云々」
「………ふーん?」
凩さんもイマイチぴんときていないようで、眉をしかめていた。
「まあでも、橘のはなんというか………俺が自分で言うのもなんだけど、コイっていうよりかはシンアイって感じだよな」
「? シンアイ?」
「うん、親愛とか信愛とか………家族的な」
「家族……」
その言葉が妙にストンと来て、ああと納得する。なるほどね、そうか、そういうことか。
「まあ凩さんに恋はないですよねー」
「なんかそれはそれで複雑だけどな」
「凩さん私に恋されたいんですか。うわあ」
「そういうんじゃなくてさー、ほらなんか男としての自尊心? っていうか?」
「凩さん自尊心なんてあったんですか」
「あるよ! 俺を何だと思ってんの!?」
でもまあ、これがある意味私の中で一番恋に近い感情、かもしれない。
コイじゃなくシンアイ