「………あ」
「…え。…げ」
「おいげって何だよ面貸せこら」
そう自分でも面倒だなと思う絡み方をしながら私を見るなり顔を盛大に歪めた――辻くんを、軽く睨みつけた。何だか結構久しぶりな感じがする。鳩原が失踪して少し経った頃に自販機の前で会ったときくらいか。この子の先輩とはほぼ毎日顔つき合わせてんだけどね。
…それにしてもボーダー本部のラウンジで勉強とか真面目かよ……学校でやればいいじゃん勉強なんて……
「……なんですか橘先輩」
「いや、なんか嫌がられると苛めたくなって」
「最低ですね」
「ほー? 悪かったね最低で」
「止めてください放してください」
ヘッドロックを仕掛ける体勢に入ると、辻くんが嫌そうに身をよじった。まーそりゃ嫌だろうね。うん。そりゃそうだわ。私も嫌だし、ヘッドロックなんて。
「……つーかさ、あれから二宮さんどーなの」
「さり気なく前に座らないでもらえますか。…二宮さん?」
「何かこの前目の前で倒れられたから。どうなのかなーと?」
「あんたに人を気にする心があったんですか」
「辻くんさっきから喧嘩売ってんのかな?」
手を伸ばし、その整った顔をぐにーっと引っ張ってやる。おう、よく伸びるなこの頬は。
辻くんはまゆを寄せて私を睨んでくる。威勢が宜しいことで。というかなんだよ、この髪型。アシメとか、気取ってやがんのかコラ。しかも似合ってるってどういう事だよオラ。
…いやまあ、それはさておきとして。
「やめてくらさい」
「…あのさあ」
「ひっふぁったまま話続けないれくらさい」
「正直、私君達二宮隊が隠してることとか、凩さんが知ってることとか、知りたくて仕方ないんだよ」
「、」
「今日絡みに来たのはさ、その隠してることを聞き出すため…ってわけじゃないんだけど」
「……?」
「これだけ、教えてもらいたくて」
す、と、辻くんの頬から手を放した。辻くんは怪訝そうな顔で私を見ている。
「君らはさ、鳩原の居場所を知ってるの?」
「……、」
辻くんは大きく目を見開いて、動揺、したように見えた。「どうしてそんなことを?」なんて質問には「なんとなく」と返しておく。…いや、本当になんとなく、だから。鳩原の失踪について何を隠してるんだろう、って考えたら、私の頭じゃこのくらいしか思い浮かばなかった。
辻くんは暫く動揺していたようだったが、すぐに落ち着いてきたのか、ふう、と息を吐きだして、私を真っ直ぐに見据えた。
「…橘先輩、髪伸びましたね」
「…、?」
「俺と前、自販機で会った時は、俺が男だと思うくらいには、短かったのに」
髪は確かに、あの後なんやかんやと切る気になれず、切りに行かなまいままで、あの頃から伸ばしっぱなしだが。いやそうでなく。
話を誤魔化されたのかと、思った。しかしそれにしては下手くそな逸し方だな、とも思った。あまり遠まわしな言い方が好きではない私は、少し苛ついて、眉を寄せる。
「…辻くん何が、」
「自販機で会ったのは鳩原先輩が失踪してすぐでした。つまり、それだけの時間が経ってるってことなんですよ」
「………」
辻くんの言わんとしてることを理解して、すう、と頭が冷えていく。つまり、辻くんが言いたいのは。
「時間が経ったんだから、もう鳩原のことはいいだろってこと?」
「………」
「は? なにそれ。違うでしょ」
辻くんを見下ろし、睨む。なんか、いつになく感情的になっている気がした。
「………そうですね。すみません」
辻くんは、少し眉を下げて、薄く笑った。また睨むと、もう一度すみませんと謝ってきた。
「……なんとなく、意外で」
「は? なにが」
「貴方がこんな時期まで、鳩原先輩を気にしていることが」
「………」
「正直に、俺の貴方への印象はドライモンスターでしかありませんから、本当はすぐ忘れるのかと思ってたんです」
「ふうん。失礼なことだね。噂で人を判断しちゃダメだよ辻くん」
「貴方はほぼ噂通りじゃないですか」
なんだと。
「さっきの質問に答えるなら、俺からは何とも言えませんが………知っている≠ニも言えるし、知らない≠ニも言えます。…俺からはこれ以上は言えません」
「………あ、そ」
これ以上辻くんからは何も聞けないと悟った私は、小さく息を吐きだし頭を掻く。なんだ知っている≠ニも知らない≠ニも…って。意味分からん。今度会ったらコイツ脳天ぶち抜いてやる。
「まーありがとね」
「……イエ」
「あとそこの解答間違ってるよ」
「え」
ふんだ、ざまあみろ。
時間とか関係ない