凩さんの家にやって来た。何をしに、とか用事とかは特に何があるわけでもなく、なんとなしに休日、暇潰しに遊びに来ていた。
 凩さんの家はごく普通の一般家庭で、何度かお邪魔したことはあるが家族にはあったことがなかった。両親は仕事が忙しく滅多に家におらず、それと弟が一人いると、確か前に聞いたことがある気がする。

「橘と同い年でさあ。そういえばなんか橘に似てるような気がする」
「はあ、同い年」
「うん、高三で、十八歳。橘のこと恋愛対象で見たことないの、そのせいもあるかも」

 そう言って笑う凩さんにはあ、と曖昧な返事を返しながら、その弟くんとやらについて考える。なんともまあ、こちらこそ恋愛対象で見たことはないものの、弟に似ていると言われるのは一応女として複雑な気持ちになる。弟とはなんなんだ、男かよ。せめて妹だろと思うが、凩さんの妹なんて勘弁願いたいのでゆるく首を横に振った。
 そうして凩さんが私と弟くんの似ているところとやらを話すのを聞き流していると、ガチャリと扉が開いた。

「兄さん、ただいま。誰か来て………え」
「あ、啓斗。おかえり」

 私を見て固まる、凩さんとはまた違った感じの黒髪イケメン。なんというか、凩さんとは真反対のタイプのイケメンを、私もぼんやりと見返す。凩さんのふわふわした癖のある茶髪とは似ても似つかぬあまり癖のついてない、少し硬そうな黒髪。凩さんのぱっちり二重とは違い、一重まぶたのスッキリした切れ長の目。始終大体笑顔の凩さんの弟とは思えぬほどの無表情。
 お互い数秒、見つめ合い、しかしすぐにお互いに視線を外した。

「…兄さん、彼女?」
「えっ、は!? ちっ、ちっがうよ!! ボーダーで俺の隊に所属してる隊員!」
「…ああボーダーの…………、どうも」
「、ああどうも」

 軽く会釈をして、もう一度凩さんの弟くん…ええと、啓斗くん?を軽く見やった。うーん、黒髪イケメンっていいな。なんか同い年の黒髪イケメンは珍しいかも。当真はイケメンじゃないし。うん。不細工ではないけど。とりあえず髪型のセンスが壊滅的すぎて。いやある意味センスあるのかもしれないけど。

「……兄さんの隊って、大変でしょ」
「うん!? 啓斗!?」
「え? ああまあはい、そうですね。凩さんてばヘタレですし」
「橘!?」
「ええと、橘さん? 同い年でしょ? 敬語はいいよ。…そっか、やっぱりヘタレてんだ」
「へたれるってなに!?」

 無表情で凩さんの部屋に押し入り、ズバズバと凩さんを攻撃していく啓斗くんは確かに私と似ているところはあるかもしれない。そうしてそのまま二人で凩さんを虐めていると、凩さんがぽつりと「お前ら双子みたい」と嘆きだしたのでお互いに顔を見合わせた。

「拗ねないでよ兄さん面倒臭い」
「そうですよ凩さん面倒臭い」
「お前らひっどいな!!」

 若干凩さんが涙目になってきていたのでとりあえず止めておく。啓斗くんは凩さんを虐められなくなりつまらなく思ったのか、それじゃあごゆっくりと私に軽く会釈をして、部屋を出て行った。私もどうもーと軽く手を振り、啓斗くんを見送る。…ふーん、あれが凩さんの弟くん。

「楽しい子ですね」
「…そう? あんまり表情変わんなくてそう言ってくれる子少ないから、そう思ってくれて嬉しいよ」
「あ、弟想いの兄の図とかいらないんで……イヤホント」
「なんなんだよお前は!!」

 再度目に涙を溜めて言い返してくる凩さんだがいや本当に、ね。いらないんで………そんな感動的な図………こうやって凩さんの好感度ばかり上がっていくんだ私は知っている……
 どこの好感度が上がるってそりゃあボーダー本部内とか色々だ分かるだろ。ボーダーでの凩さんの好感度の上がりよう凄いんだからな。多分人たらしなんだと思う。本当どこのラノベの主人公なんだか……

「今日名風が来られなかったのは残念だなー」

 気を取り直した凩さんが、話題を作るようにそう言った。私はそれに顔を上げて、そうですねえと名風ちゃんの顔を思い浮かべた。今日、実はウチのオペレーター、名風ちゃんも一緒に凩さんの家に遊びに来る予定だったのだが、どうやら他に予定が入ってしまったらしく、そちらの方に行ってしまったのだ。まあ、その予定というのが……

「まあ、氷見ちゃんに誘われたならしかたないですよね。凩さんと氷見ちゃんならそりゃ氷見ちゃんに行きますよ。元気出してください」
「こんな慰める気皆無な慰め聞いたことない」

 何故だか落ち込んでしまった凩さんに首を傾げながら、私はふと思い至って、立ち上がる。

「そうだ名風ちゃんへのお土産に凩さんの昔の恥ずかしい写真でも持って行ってあげましょう」
「なにがそうだ!? なにその名案だ!≠ンたいな顔!? 全然名案じゃないよ!?」

 凩さんのツッコミは聞き流して、割とグチャグチャな本棚を漁っていく。この人几帳面で器用そうなのに全くの真逆だからな……人は見かけによらないと凩さんと木崎さんで思い知った。
 ぼんやりとそんなことを考えながら、本棚から啓太成長記録 二〜五才≠ニ書かれたアルバムを取り出した。こんなちっちゃい頃のアルバムなんてあるもんなんだなー。私のは母さんたちが叔母さんたちにあげてた分しか残ってないからよくわからない。

「あッ!? 橘それはっ…!!」
「…え? ぅわっ!?」

 私がそのアルバムを手に取った瞬間、凩さんが弾かれたように反応して私の手からアルバムを取ろうとしてきた。咄嗟に反応してしまった私と、アルバムを取り損ねてバランスを崩した凩さんが、当時に床へ倒れこむ。

「………」
「………」

 凩さんに押し倒される私の図の完成である。私の性格からいって展開的には逆な気もするがいやそうではない。絶句している凩さんと、ぼんやりと凩さんを見上げる私。ここでお互いに声をかけるとか、反応するとか、しておけば良かったのだ。

 ガチャリ、扉が開いた。

「おい、凩。あの件の事なんだが…………」

 ―――…数秒、空気が固まった。

「………………………………悪い、邪魔したな」

 バタン。扉が閉められた瞬間、凩さんが大声で怒鳴った。

「ちッ、違う誤解だ!! 二宮ああああッ!!」

 やはり二宮さんが来ると乙ゲー展開が多い。

乙ゲー的展開

SANDGLASS