「というわけで、A級を目指すことになりましたとさ。めでたしめでたし」
「終わるの!?」

 放課後、犬飼と並んで本部に向かっている途中のこと。私は鳩原について知ったこと、そしてA級に上がり遠征部隊を目指すことを話した。最後にちょっとふざけたら怒られてしまった。てへぺろ。寒いし古いか。

「っていうか、A級?」
「うん。鳩原に会いに行こうと思ってる」
「ふうん…」
「…なに。なんか文句あんの」
「べっつに」
「はあ?」

 めんどくさげな目を向けるが、犬飼はそれ以上それについては触れず、パッといつもの明るい笑顔を作って違うことを話しだした。今日あった面白いこと、だったり、二宮隊での面白話、だったり。私は首を傾げながら、その話を聞き流した。


 ▽


「あ、穂村、犬飼」
「ん…? あ。凩さん。どーも」
「どーもー」

 本部に着いてすぐ、丁度こちらも着いたところらしい凩さんと会った。先日から私と名風ちゃんの名前を呼び始めた凩さんだが、未だにちょっと慣れないでいる。え、何ですか気持ち悪いなんて悪態をついたら「心機一転ってことで」と穏やかに笑われた。よく分からないがなにか悩んでいたらしい凩さんなりの気分の変え方らしい。まあその悩みもなくなったようで何よりだが。

「穂村たちも今来たとこ?」
「ハイ。あ、今日って何するんですか」
「今度のランク戦の作戦会議。それに伴っての修行メニューを考えようか」
「はーい」

 今度のランク戦でA級への挑戦権を手に入れることを狙っている私達はいつになくやる気だ。先程からずっと喋っていた犬飼は空気を読んだのか黙ってしまった。

「なに、今回ので上がる気なの?」
「うん。いけるでしょ」
「いや凩隊なら無理ではないと思うけどさ、」

 犬飼はまた微妙な顔をして、口をつぐんだ。ぼそぼそとなにかを呟いたのが聞こえたが、内容までは聞き取れず、聞き返した。

「え? なに?」
「……なんでもない! ほら作戦会議するなら早く行きなよ」
「はあ? …まあいいや。じゃーね」
「うんまた明日ー」

 ひらひらと手を振って別れた。

 凩さんがついてきていないことに気づいたのは作戦室に着いてからだった。


 ▽


「はあ……」

 穂村が見えなくなると、犬飼は大きく溜息を吐き出した。完全に去るタイミングを逃してしまった俺が大丈夫かと声をかける前に、犬飼が先に喋り出す。

「ずっるいですよねえ、穂村って」
「……え?」
「俺ね、穂村が好きなんです」
「………」

 それはまあ、知っていた。というか、大体の奴が感づいていることだと思う。気づいていないのは二宮とか、あまりそういうことに関心がない奴らくらいだろう。
 穂村が去っていった方向を見ながら、犬飼は呟くように言った。

「俺はこんなに想ってんのに、穂村はいっつも鳩ちゃんのことばっかだ」
「……犬飼」
「凩さんもズルいし、当真とか荒船とか同じ狙撃手で一緒にいれてズルいし、絵馬とか別役も年下で弟子だからって構ってもらえてズルいし、出水はあんま邪険にされてない気がするし、鳩ちゃんは親友で、いなくなってまで穂村の心の中にいるからズルい」

 ペラペラと、溜まっていたものを吐き出すように述べていく犬飼。俺は黙って聞いてやる。

「俺は鳩ちゃんが仲良くなる前から一緒にいて好きだったのに、ズルい」

 穂村の去っていった方向を見つめたまま、犬飼は息を吐いた。

「俺は鳩ちゃんに勝てる日が来るのかな、って俺、いっつも思いますよ」
「…………犬飼……」

 上手い言葉が見つからずに、俺は目を彷徨わせる。とりあえずなにか言ってやらないと格好悪いと思い、なんとか口を開こうとする前に、また犬飼が先にパッと笑顔になり、喋り出した。

「あはは、なんかスミマセン。変な話しちゃいましたね」
「え!? い、いや」
「いやあおハズカシイ。今のは聞かなかったことにしてください」

 持ち前の明るい笑顔と早口でそう捲し立てた犬飼は、それじゃ!とさっさとこの場を離れていく。俺はポカンとして、犬飼の後ろ姿を見送った。

「………穂村お前、」

 めっちゃ想われてんじゃん。幸せ者め。
 その場に立ち尽くしたまま、そんなことを思った。

想い想われ気付かない

SANDGLASS