「……え? 穂村が緑川に弟子入り?」
俺は先程たまたま会った出水からのその情報に驚いて、思わず聞き返した。出水は微妙な顔をしながら頷き、はあ、と曖昧な返事を返した。
「へえ? なんでそりゃまた」
「いやあ、なんか、今の自分の弱点は機動力だ、とかなんとか? 凩さんなら知ってるかなあ、と思って声かけたんすけど」
「弱点……機動力……、ああ、うん、知ってる」
「? なんすか?」
「ドライモンスターがまた成長しようとしてるってことだな」
「はあ?」
出水は顔を歪めて首を傾げた。俺は笑ってそれ以上は答えなかった。
▽
「まったくさあ、穂村はさあ?」
「何なんだよ犬飼お前は毎度毎度……?」
朝、学校に行くと、何だか不機嫌そうな犬飼と出会した。面倒そうなそれに顔を歪めるが逃げられそうにない。いやね、毎度のことだけど私が弟子とったり一人を構い倒したりしてるとこうやって絡んでくるのは面倒だ。弟子とるのが駄目なら弟子入りも駄目ってか。お前は私の彼氏かよ。そう文句を言ったら照れられた。何で照れるんだよ…?
「東さんは文句言わないくせに」
「いやいや、東さんはね、ほら、別次元というかね? というか東さんと緑川を一緒にするなよ」
尤もな指摘にああそうかと素直に頷き、私はとりあえず席に向かった。向かう間付いて来た犬飼はずっと文句をつらつら述べていた。
「……ってかさ、当の緑川はなんて言ってんの」
「、なんだ、そこまでは知らないのか」
「うん、噂でちらっと聞いたくらいだから」
「ちらっと聞いただけで文句言いに来んなよ…」
呆れ顔でそう言ってから、まあしかし教えても良いだろうと口を開く。
「感覚派で教えるとか分かんないしそもそもポジション違うからどうしようもないけどそれでも良ければ、ってさ」
「受け入れやがったかあのクソガキ」
「どうした犬飼口悪いぞ」
まあしかし、そのとき緑川に言われたことについて、言われるまでまったく思い至らなかったのだからまあ情けない。なんで狙撃手が攻撃手に弟子入り希望してるんだか。
「でまあ、一応私の師匠ってことになったからとりあえずは敬語無いのを許してる感じ」
「あれ結構気にしてる?」
「敬語って大事だと思うんだ。私でさえ使ってんのに。凩さんとか太刀川さんとかに」
「その二人の立ち位置はどうなってんの…」
呆れた顔をした犬飼はふうと息を吐き、軽く私から顔を背けた。
「人の気も知らないでさぁ……」
「は? なに?」
「何でもない!」
最近多いなそれ。
▽
「うーん、すばしっこい……」
モニターに映る緑川のすばしっこい姿に、私は小さく呟いた。虫のようにちょろちょろ動く緑川は素直にすごいと思う。ぼんやりモニターを眺めていると、模擬戦を終えたらしい緑川が「橘せんぱーい!」と手を振ってきた。それにやる気なく振り返す。
「なんか参考になったー!?」
「さーどーだろ…」
「え!? 聞こえないー!!」
「………」
少し離れているので声を張り上げないと聞こえないらしい。声を張り上げるのが面倒すぎて溜息を吐き出しベンチに寝転がった。ええ!?と緑川の声が聞こえてきた。なんて態度の悪い弟子。
「態度わっるいな」
「は……? うげ、バカ船じゃん……」
「出会い頭に喧嘩売ってくんなよ………つい買いそうになるだろ」
丁度私の思っていたことと同じ声のかけ方をしてきた荒船にやる気なく喧嘩を売ると、呆れ顔で返された。なんか今日は異様にやる気でない…………最近向上心を育てすぎたんだ……神様が休めって言ってるんだそうに違いない……
「あれっ、荒船さんじゃん!」
「あ? おー緑川。橘の師匠になったって? 出世したな」
「えへへ、まーでもおれ、狙撃手の機動のこととかまっったく分かんないんだけどねー。その辺は見てもらって覚えるしかないんだけど…」
「ごめん全くわかんない」
やはりそもそも攻撃手に弟子入りというのが間違っていたのだろうか、と頭を悩ませながら、再度ベンチに寝転がる。
「機動なー、俺が教えてもいいけど、もっと適任を一人知ってるぜ」
「……は? 適任?」
荒船の言葉に反応して、体を起こす。心当たりはないのだけども………
荒船はそんな私を見て、に、と腹立つ笑みを浮かべた。
「教えてやろうか?」
背に腹は変えられぬ