「どおもー、隠岐孝二言います」
「はあ……」
何で室内なのにサンバイザー被ってんだろう、というのが、そいつに会って、初めての感想だった。
荒船に紹介された、曰く機動型狙撃手≠ナあるらしい隠岐孝二≠ヘ、ニコニコと笑みを浮かべて私に軽く会釈をした。なんだ機動型狙撃手≠チて私の悩みを一気に解決してくれそうなそれ。いやまあ私の努力次第ではあるけど。そしてなんだかそこはかとなくとりまるを思い出すなこの髪型………でもなんかサンバイザーのお陰であんまりモサモサ感ない。今度とりまるにサンバイザー渡してみようかな。
「凩隊狙撃手の橘穂村さんやろ? うちの隊長が「弾が命中したときの顔がカワイイな」って言うてはりましたよ」
「はあ……?」
「カワイイよりかはカッコイイイメージやったんでその顔見て世界変わりましたよ、笑った顔カワイイんですねえ」
「………」
…何なんだろうコイツ………私を褒めたところでなんも出ないぞ……というかこっちが弟子入りしたいんだから寧ろこっちが媚び売らなきゃいけない方なんじゃ……? 媚びなあ………売ったことないな……
「…………素敵なサンバイザー? だね?」
「え?」
「あとイケメンだねーうん。関西弁素敵ー」
「………」
何をどうしたらいいのかよく分からなくなってとりあえず適当に褒めてみたら黙ってしまった。おおっと、あれ、違ったようだ。分からん、褒めるのってどうすりゃいいんだ。
「えーっと、褒めてはりました?」
「一応。弟子にしてもらうつもりだったから、媚びでも売っとこうかなあと」
「それであれですかー」
隠岐は暫く黙りこんで、しかしすぐに笑い出した。ホンマおもろいなあ、なんて何を笑っているのかわからないが取り敢えず馬鹿にされているのは分かったので(分かってない)隠岐を睨みつけた。これだけでボン(唯我)なら泣く。
「そんなんせんでも教えたりますって」
「ああ、そう? まあでもとりあえず、よろしくお願いします」
「しっかりしとるんですねえ」
感心したように隠岐が言った。別に普通じゃんと思うが最近のやつはそれができない奴が多いらしい。最近のやつは、ってお前も最近のやつじゃん、というのは心に留めておいた。
まあそうして、隠岐孝二が私の師匠になったのである。
▽
隠岐はどうやらグラスホッパーというオプショントリガーを使って戦っているらしい。それなら緑川も使っていたなあと思い出しつつ、使ってみようかとも考えたことはあるのだが、使い方がよくわからないのとグラスホッパーのこと自体良くわからず、今まで使わずにいたものだった。
「まあ簡単に言うと空中に足場を作るトリガーですね。踏むと加速を得られます」
「へー?」
「撃ったあと逃げるときとか、後は標的を追いかけるときとかに俺は使いますかね」
「なるほど」
でもさっき使ってみたらグラスホッパーってバランス感覚いるんだなって。割とバランス感覚ない私には難しかった……やっぱ修業が必要かな、とぼんやり息を吐いた。
「穂村さんならすぐ出来ると思いますけど」
「いやー割と運動神経はよろしくないんだよねー。それで狙撃手選んだってのもある。まあ失敗だったかなとは思ってるけど」
「そーですか? 随分初期から容赦ない狙撃をしてはったって聞いてますけど」
「効率良い方法選んだだけ。それに言ってくる奴は割と面白がってるだけだし、最近は皆脳天狙ってるよ、容赦なく。隠岐もでしょ?」
「まあ、そうですねー」
隠岐の気のない返事を聞きながら、私はふと、少し前に、正反対の鳩原と比べられていた事を思い出した。あの頃、私達は確かに正反対で、私のようなやつも鳩原のようなやつも珍しかった。だけど最近では脳天を狙う奴も出てきて、鳩原のように、トリオン体でも人を傷つけられないという人も多く出てくるようになってきた。今、私と鳩原のようなやつは珍しくない。
「(でも鳩原は狙撃手をやめなかった)」
人を撃てなくて、オペレーターになったりやめたりする人は多いが、鳩原は攻撃の方法を見つけて対処して、狙撃手を続けた。そういうやつは、今でも珍しかった。私はなにも、珍しくない。
「穂村さん?」
「…、あ、ごめん。なんか言ってた?」
「グラスホッパーの説明してましたよ」
「ごめんもう一回」
快く頷いてくれた隠岐に内心感謝しながら、私は今度こそちゃんと説明を聞く。戦術パターンとか、色々と詳しく説明されるのを聞きながら、小さく、気づかれない程度に息を吐きだした。
「(やめよう。何考えてんだろ)」
とにかく、私は一刻も早く機動型狙撃手にならなければ。
機動型狙撃手に私はなる