隠岐からグラスホッパーの指導を受け始めて一ヶ月と少し、上達したにはしたが、やはり私は他の人に比べて遅いようだった。自分で言うのもなんだが狙撃の才能はある方だと思うけどこれについての才能はからきしだと思う。いや、本当に。隠岐の教え方は丁寧でわかりやすいし、師匠に問題はないのだろうと思う。が、私の身体の覚えが悪すぎる。ちょっと泣きたくなった。
それはそうと、先日からランク戦が始まった。私達も何戦かして、順調に勝ち進んでいっていた。グラスホッパーはその中で何度か使ってはみたのだが、成功するときもあれば失敗するときもあった。この間なんかは荒船の隊とあたったとき、グラスホッパーを使って逃げようとしたら失敗してしまい、ここぞとばかりに突っ込んできた荒船にアイビスで脳天をぶん殴ってやった。アイビスくっそ重かったけどそのお陰かしばらく固まっていたのでその間に逃げさせてもらった。多分痛みはなくとも衝撃が凄かったのだと思う。アイビスで物理攻撃今後使えるかもしれないとか思ったが、試合の後当真と荒船に「殴るのも脳天なのかよ」と笑われたので多分使わないと思う。多分。
「はー無理、死ぬ。帰る」
「来たばっかで帰るとか言わないでよ……」
今日は犬飼と一緒に駅前の方へ来ていた。久々に学校の休日と防衛任務の休みの日が被ったので犬飼が誘ってきたのだ。気分転換にでもどう? と誘われたので少々行き詰まっている私に気を使ってのことだと思う。多分ほんとに遊びたかったのもあるんだろうけど。
「ほら、バウムクーヘン奢ってあげるからさ、ね」
「のった」
「やった! じゃあ行こうか」
久々の駅前のバウムクーヘンだ。グッとガッツポーズをしながら犬飼と雑談をしつつ目的の店へと向かう。そういえば外に出るのも久々だ。
「そういえば、B級四位だってね? 凄いじゃん、後二、三試合くらいでいけるんじゃないの?」
「そういうけどさ、後の試合が辛いんじゃんか。あんたらんとこの、二宮隊とか、隠岐のいる隊とか。まあ、あんまり負ける気してないけど」
「うわあ、すごい自信。まあ、俺だって負けないけど。穂村のこと撃ち抜いてあげる」
「こっちだって撃ち抜いてやるし」
そう言うと犬飼は嬉しそうに笑った。
犬飼はよく、私の言葉で嬉しそうにしたり、不機嫌になったり、泣いたり、笑ったりする。ただでさえ人の心がわからないなんて言われてる私だが、犬飼のことは本当に分からなかった。どうして私の言葉で笑ったり泣いたりするのか、嬉しそうだったり、不機嫌になったりするのか。さっぱり分からない。
「犬飼って、変」
「穂村には言われたくないよ」
やっぱり犬飼は嬉しそうだった。
▽
「うま」
「うわめっちゃ幸せそう」
人の金で食うバウムクーヘンは美味い。駅前のケーキ屋さんで、そんなことを考えながらバウムクーヘンを頬張る。目の前には苦笑しながらこちらを見る犬飼。女の子だらけの空間で、結構目立っていた。
「前来た時も思ったけどさ、犬飼の場違い感半端無いよね」
「それ言わないでよ……っていうか穂村もあんま似合ってないからねこのケーキ屋」
「似合う似合わないじゃなくて好みのケーキがあるかだよケーキ屋は」
「穂村つっよ」
似合わないことは百も承知だ、このピンクい雰囲気のケーキ屋が似あうとは思っていない。しかしここのバウムクーヘンはとにかく美味いのだ。ここは譲れない。
「はー……まあ、穂村が楽しいなら良いんだけど」
「つかこの後どこ行くの?」
「んー、あんま決めてないけど」
ふーんと相槌を打ちながら、またバウムクーヘンを食べる。そういえばここ、前に鳩原とも来たな。鳩原は最初来た時入るのすら嫌がって大変だってけど無理矢理引っ張って入ったのは割と記憶に新しい。結局この店のケーキが気に入ったようで、その後何度か二人で来た。たまに、犬飼も一緒だったけど。
「ねー犬飼」
「なに?」
「二宮さんとか辻くんとかの弱点教えてよ」
「は?」
「あと犬飼のも」
「嫌に決まってるでしょ」
「だよねー」
つか二宮さんの弱点とか俺が知りたいし、とぶつぶつ文句を言い始めた犬飼をボーッと見て、息を吐く。二宮隊は強い。何故だかA級に上がろうとしないけど、確かな実力を持っている。
弱点とか知ったうえで戦って勝っても意味ないけど、そうでもしないと勝てない気もしている。
「辻くんは女だけど、私には耐性ついたしなあ」
「弄りまくるから」
「犬飼はー」
「ないない」
「マジかよ嘘だろ」
「っていうか普通教えないし」
「まあね」
先ほどと似たような会話を交わし、また息を吐いた。
まあいいや、実力で頑張ろう。
休日には息抜きを