二宮さんは、鳩原を貶す言葉をよく使う。作り笑いの貼り付いた冴えない女≠ェ主な例だが、しかし多分、別に鳩原のことが嫌いなわけではない、と思う。鳩原の実力を認め勧誘したのは二宮さんだし失踪する前、分かりにくかったが心配もしていた。それと以前、私が凩さんの家で盗み聞きをした際、鳩原のことについて調べるだとか調べないだとかの話をしていた気がするので恐らく、二宮さんは鳩原のことが嫌いではない。むしろ、まだ隊員として大切に思っている、のかもしれない。全て私の勝手な考察ではあるが。
二宮さんは私から少し離れたところで、攻撃もせずにジッと私を見つめていた。私はどう二宮さんから逃げようか頭を巡らせながら、二宮さんを見つめ返す。
「A級に、上がるつもりらしいな」
「ハイ、まあ。そうですね」
「あいつのためか」
あいつ、と濁されて問われたそれに、「そうですね」と笑顔を作って頷く。頭の中は逃げることでいっぱいだ。
「以前、俺はお前たちがA級に上がれるとは思えない、と言ったな」
「そうですね、大分前ですけど」
「今の、自信をつけた凩と、向上心のついたお前なら、A級に上がることも難しくないだろう。だが」
「……」
「あいつのために、お前がそこまで出来るとは思っていない」
二宮さんがアステロイドを構える。うわ、と驚いて、咄嗟にグラスホッパーを使った。奇跡的に思った方向に、バランスを崩すことなく行くことができた。ギリギリのところで、二宮さんの攻撃を躱す。
「ひっどいですよ、話してる最中に攻撃してくるなんて」
「なに甘えた事を言ってるんだ」
屋根と屋根を移動しながら、二宮さんと会話する。二宮さんマジ怖い、あれもうちょっと反応遅かったら急所に命中してたよ。
「二宮さん」
「なんだ」
「やります」
「、」
「出来ないかもしれないけど、やります。A級にあがって、どれだけかかっても遠征部隊に入る。決めたんです」
二宮さんは、小さく舌打ちをした。アステロイドがいくつか、私を狙っている。私は銃をイーグレットに持ち替えて、構えた。後ろに、気づかれないようグラスホッパーをセットする。
「アステロイド」
弾が放たれた。私は一歩後ろに下がり、グラスホッパーで、上に跳んだ。弾は外れ、私の下を流れていく。私は宙に浮いたまま、銃を構え、狙いを定めた。
「(当たれ…!)」
しかし弾は二宮さんの頬を少し掠っただけで、致命傷には到らない。グッと奥歯を噛み締めた。
二宮さんは私目掛けて、弾を放ってきた。
「っ、」
文字通り蜂の巣になり戦闘体が破壊された私は、あのフカフカのベッドへと強制送還された。あー、と声をあげる。あそこで、上手い人ならグラスホッパーを使って避ける事も出来たんだろう。というか、あそこで外さなければ。くそ。
起き上がり、名風ちゃんの元に行けば、「お疲れ様です」と無機質だが気遣うような声が耳に届く。私は「ありがと」と笑って、モニターへと近付いた。
「凩さんすみません、二宮さんにやられました」
『えっ、今の穂村!? マジか……こっちは犬飼やったんだけど、結構負傷がでかい』
「マジすか。うわあ」
『でも穂村結構ポイント稼いでくれたっぽいし、逃げ切ってみるよ』
「あ、二宮さん倒してくれるとかそういうんじゃないんですね」
『手負いなので無理です』
そこはかっこよく『敵討ってくるぜ!』とかいうところだと思うのだがまあ凩さんだし仕方ない。犬飼一人倒しただけでも上々だ。できれば辻くんくらいはとってほしいけど。
それから暫く凩さんの戦いをモニター越しに見守る。あ、ここ私がいればサポート出来たのに。ここも。ここも。なんで、やられたんだろう。
「……はあ」
あーくそ、悔しいな。
▽
その後、凩さんが辻くんに不意打ちを食らいぶった切られた。しかし凩さんの苦労の甲斐あって、私も何人かポイントを取っていたこともあり、二宮隊には及ばなかったものの二位という結果に終わった。ランクも三位をすっ飛ばして二位だ。A級への挑戦権がもらえる。
「どこの隊にしましょうか?」
「うーーーん…」
作戦室にて、私と凩さん、名風ちゃんは机を囲んで話し合いをしていた。議題はずばり、どこの隊へ戦いを申し込むかだ。今から上がろうとしてるやつがなんだけども、正直A級なんかバケモノだと思ってるしやりたくないんだけど、しかしこれをクリアしなければ先へ進めない。A級にあがらなければ、私の目標へ近付けない。鳩原ともきっと、もう会えない。
「太刀川隊とかは却下ですよね?」
「うーん……今回はちょっとなあ」
「でも私がボンと出水抑えれば後は凩さんが太刀川さんどうにかしてくれればいけるんじゃないですか?」
「ボン?」
「唯我」
「変なあだ名付けんなよ…」
呆れ顔の凩さんにともかくどうですかと首を傾げるが、凩さんに「俺が太刀川止めるの前提だろ!」と却下されてしまった。いや、なんというか、まだよくA級に上がる仕組みとかよく分かってないんだけど。これって勝てばいいのか、それとも試合を見て内容で総合判断されるのか。後者ならいいんだけどなあ、頑張りが認められる気がする。
「……あ」
「ん? なに?」
「影浦隊」
「え」
「影浦隊がいいです」
私の提案に、凩さんは頬を引きつらせた。多分影浦かよ、って思ってるんだと思う。だけど、こればっかりは譲れない。
「ユズルに勝ちたい。鳩原の弟子に勝って、A級に上がりたいです」
「……、」
自分の思っていることを素直に伝えると、凩さんは目を瞬かせて、ぐっと口を引き結んだ。
「……分かった、影浦とか超怖いけど、頑張るよ」
「! ありがとうございます」
さあ、運命の分かれ目だ。
決めたこと