私はユズルにあまり好かれていない、のだと思う。理由は私もよく分かってないのだが、多分、私がちゃんと鳩原のことを考えていないことに苛ついているのだと思う。いつか私はユズルに言った。多分、鳩原なら大丈夫だと。きっとユズルには、その言葉が無責任で何も考えていないように聞こえたのかもしれない。実際、私はまだあの時鳩原を探すなんて考えは持っていなくて、そんなに鳩原の失踪を問題視はしていなかった気がする。勿論悲しかったし、どうして、という気持ちはあったが。だけど、問題を軽く見ているフシは、確かにあった。きっとユズルはそういうのを敏感に感じ取る子だ。だから多分、私はユズルに好かれていない。
「おお…、接戦」
ビルの上、凩さんと影浦の戦いを見ながら、私は呟く。影浦はスコーピオンの使い方が上手い。順位は忘れたけど、攻撃手ランクは凩さんよりも上だった気がする。攻める影浦に、なんとか応戦しているといった感じの凩さん。戦況は、中々に苦しい。
「さてと……私も仕事しなきゃな」
暫く二人の試合を見ていたが、私も自分のするべきことを思い出して首を横に振る。凩さんなら大丈夫だ。多分。
私の担当はゾエさんとユズルの二人だ。援護射撃で凩さんの戦いがこれ以上不利にならないように二人をとる。とまあ、口で言うのは簡単だが当然難しい。
「名風ちゃん、二人の位置分かる?」
『北添先輩は穂村先輩のいる所から北西の二つ先にあるビルにいます。絵馬くんは分かりませんが、北添先輩や影浦先輩の位置からして、近くに潜んでいる可能性が高いです』
「そっか、了解」
うちのオペレーターは優秀だ、と少し笑って、とりあえずゾエさんを取りに行くかと足を動かす。その矢先、なにか視界に光るもの。
「!」
咄嗟にシールドを張ると、それがぶつかってくる。パァン、と弾けたそれに驚いて、そして射撃だ、と理解する。今撃ってきた方向にユズルがいるのか。今の凄いな、当たってれば脳天直撃だ。
私は方向を転換して、グラスホッパーを発動した。踏むと、一気に次のビルに跳んだ。着地は少し失敗した。やっぱり難しい。いやそれより、ユズルどこに……あ。
「お、ユズル見っけ」
「………」
そう言って首を傾げると、ユズルは立ち上がり、私を見やった。やはりその視線は冷たい。私は笑う。なんか、ほんとに嫌われてるな。
「オレを見つけたなら、他のビルから狙撃すればよかったのに。あんた、狙撃手だろ」
「いやあ、そしたらゾエさんに落とされるよね。人数的にも実力的にも、こっちは最初から圧倒的に負けてる」
「………」
「影浦隊は強いよね。ほんと、負けちゃいそうだわ。やっばいなー」
「…あんたはわざわざやられに来たのか」
「いやいや、んなわけ」
言いかけたところで、後ろから攻撃。咄嗟にシールドを貼る。うわあ、ゾエさんか。模擬戦中だからしょうがないとはいえ、話してる最中でみんな酷いよね。まあこれ自分のことは完全に棚上げしてるけど。
「…ユズルはさ」
「なに」
「私が鳩原のことどうでもいいみたいに思ってると思ってるかもしれないけど」
あれ、なんか言葉重複しちゃったな。まあいいや。
「私は…」
「知ってるけど」
「…ん?」
「あんたが鳩原先輩のことを大切に思ってるのなんて知ってる」
「えっ」
「は?」
あれー、てっきり鳩原のことちゃんと考えてないみたいに思われてるから嫌われてんだと思ってたんだけど。違ったのか。うわあ、まじかよ。じゃあなんで嫌われてんだろ。珍しく人の気持ち考察的なことやってみたのに的外れかよ畜生。
「…うーん、まあいいか、鳩原のことで嫌われてんじゃないならいいや」
「鳩原先輩のことで嫌ってるのは間違いないけど。あとはあんた自体がなんかいやだ」
「傷付いた」
「嘘吐けよ」
いや嘘じゃないよ傷付くよ今のは普通にさ!! なに私自体が嫌われてんの? なんで? あ、いやなんか心当たりいっぱいあるなうわあ。そして鳩原のことで嫌われてるって他に理由があんの? なんなの私ユズルに嫌われる要素多くね? 泣くよ? 私ブロークンハートなんですけど。ボロっボロなんですけど。
「うわあ……ヘコむわあ……今年一番だわー」
「今年一番とか言うやつはそんなにヘコんでないだろ」
「ヘコんでるよクソガキめーくそー」
だから私はみんなの言うドライモンスターとかじゃないんだよ。私だって傷付くんだよ。そりゃあどうでも良くない相手に嫌われてたら落ち込むわ。私だって人間だもの。
「はあ……もうなんか色々いいや」
ユズルが首を傾げる。私は足元のすぐ後ろにグラスホッパーをセットする。踏めば前に加速を得られる。リスク高いしやる予定なかったけど、なんかもう色々落ち込んでどうでもよくなってきた。ここで私が落ちてもユズルを相打ちに持ち込んどけば凩さんも後々楽だろうし。うん。もういいや、やろう。
ゆら、と立ち上がる。そして自然な動作で、後ろに片足を乗せた。
「っ、ぅわ、」
一気に前へ飛ばされる。ここでバランスを崩したら終わりだ。いやでも、きっつ。一瞬だったからか反応出来ていないユズルに、正面衝突した。私がユズルを押し倒す形になる。
「っ、な」
「っはは、まじかよ」
思い描いていた作戦が綺麗に決まったことに驚きを隠せず、思わず笑ってしまう。しかしグズグズしている暇はない。銃口をユズルに向けた。
「私の事もちょっとくらい、好きになってくれたら嬉しいな」
言った瞬間の、ユズルの顔はきっと一生忘れない。
嫌われている理由